
ロケットスタートに失敗した理由は、「売るモノ」「売るヒト」を十分にそろえられなかった点にあるようだ。TikTok Shopは日本で、このまま失敗で終わるのか。未来を予測するための参照軸は、米国にある。実は米国のTikTok Shopも、当初は「期待外れの船出」だったからだ。

TikTok Shopの日本市場での成否は、米国市場での経験を振り返るとよく分かる(出所/AdriaVidal/stock.adobe.com)
なぜ、TikTok Shopはロケットスタートに失敗したのか? その理由はコンテンツECという仕組みそのものに内包されている。
ECプラットフォームは、いわば「両面市場」の一種である。両面市場とは、異なる利用者グループをつなぎ、それぞれのグループの参加がもう一方のグループにとって価値を持つような構造を指す。
ECプラットフォームでは、購入者が増えると販売者にとってはより多くの売り上げが見込めるため参入の動機が高まる。販売者が増えれば、購入者にとっても選択肢が増えて利便性が高まる。ニワトリが先か卵が先かのような構図で、一度うまくいきだすと、自動的に規模が拡大していくのだ。
「売るモノ」「売るヒト」「買うヒト」の3要素
だが、TikTok Shopがやや特殊なのは、販売者側が「売るモノ」(商品出品者、ショップ)と「売るヒト」(動画やライブ配信で売るインフルエンサー)とに分かれている点だ。これに「買うヒト」(購入者)を合わせた3つの要素が、同時に成長できるかどうかが拡大軌道に乗るための条件となる。
3要素のうち「買うヒト」を集めるのは比較的たやすい。TikTokが視聴者に対して、広告動画のリコメンド量を増やすなどの手立てを打つことが可能だからだ。問題は「売るモノ」「売るヒト」がそろわなかったことにある。
「宣伝依頼のメールは多いが、聞いたことがないようなノンブランド商品ばかり。インフルエンサーとして自分の信頼を守る必要がある以上、怪しげな商品を宣伝することはできない」
そう嘆くのは日本企業のTikTok運用支援を手がけるMaki氏。中国ソーシャルメディアのインフルエンサーだ。以前は中国IT大手の従業員としてのキャリアもある。ゆえにTikTok Shopのインフルエンサーとして守るべき“作法”をよく心得ている。
中国の購入者は、「このインフルエンサーから買えばひどい詐欺はないはず」と、インフルエンサー本人に信頼を置いている。そうした信頼を積み重ねることが大物インフルエンサーへの出世の道だ。となると、評価の定まっていないノンブランド商品の紹介はおいそれとはできないことになる。
大手ブランドからの出品がほとんどない
ところが、日本のTikTok Shopでは大手ブランドの出品がほとんどない。TikTok Shopで稼ごうと考えるインフルエンサーがいても、売るモノがないのではどうしようもない。
大手ブランドからの出店が少ないのは、TikTokを運営する北京字節跳動科技(ByteDance、バイトダンス)の準備不足が大きな要因だという。匿名を条件に取材を受けたByteDance日本法人の元社員によると、TikTok Shopの準備が始まったのは2024年だが、出品者やMCN(マルチチャンネルネットワーク、インフルエンサーが所属する事務所)への打診が本格化したのは25年春になってからだった。
一気呵成(かせい)に物事を進める中国流は、段取り重視の日本企業相手では通じなかったようだ。このため、TikTok Shopのサービス開始時点で、組織内の意思統一に時間がかかる大企業の参加は少なく、その後も増えていないわけだ。多くの大企業が広告を出稿しているだけに、ECに積極的に参加してもらえなかったことは、運営会社としては大きな痛手だろう。
TikTok特化型のプロダクション&エージェンシーであるstudio15(東京・世田谷)を率いる岩佐琢磨社長は、「TikTok Shopには世の中を変えるインパクトがある」と期待を寄せつつも、まずはTikTok Shopに取り組むインフルエンサーを増やすことが必要だと話す。
インフルエンサーから見て魅力に乏しいTikTok Shop
TikTokインフルエンサーはこれまで、企業から1投稿で数十万円、数百万円という金額で広告案件を受託することが主な収入源だった。一方、TikTok Shopでは売り上げの約10%を受け取る成果報酬がメインとなる。広告案件で一定の収入を得ているインフルエンサーにとっては、TikTok Shopはあまり魅力的なチャンスには見えないという。
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