トランプ米大統領はたびたび、自身の政権が歴史的な投資ブームを米国にもたらしたと誇っている。大統領の歓心を買おうとする各国政府や企業の動きで、投資誓約額は年末までに21兆ドル(約3300兆円)に達すると主張している。

  この推計が正しければ、米国は年間の経済生産高の約70%に相当する巨額の資本流入に直面していることになる。仮に4年に分散したとしても、トランプ氏の主張は第2次世界大戦後の米国で最大規模の設備投資ブームを意味し、ニューディール政策や19世紀の鉄道建設ブームをも上回ることになる。

Saudi Prince To Meet With Trump In US After Weeks Of Tense Talks

トランプ米大統領(中央左)とサウジアラビアのムハンマド皇太子(11月18日)

Photographer: Anna Rose Layden/Politico/Bloomberg

  トランプ氏は先週、ホワイトハウスで会談したサウジアラビアのムハンマド皇太子に「われわれは誰も成し遂げたことのない数字を出している」と語った。

  しかし、ホワイトハウス自体が公表しているプロジェクトの一覧は、トランプ氏の主張には及ばない。

  ホワイトハウスのホームページの「Trump Effect(トランプ効果)」と題したサイトには、トランプ氏が就任した1月以降に約束された「米国内外の総投資額」が9兆6000億ドルに上ると記されている。

  だが、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の分析によると、実際の投資誓約額はこれより大幅に小さいことが示されており、トランプ氏が誇る投資ブームの規模だけでなく、その性質や持続性、実際の経済効果についても疑問が生じる。

  公正を期すと、トランプ氏の支持者の中にも20兆ドル超という数字を本気では信じていない者がいる。ただ、こうした人々も投資ブームそのものは本物だと主張している。

  トランプ氏の主張について、元経済顧問のスティーブン・ムーア氏は「それは明らかに起こらない」としつつも、「もし10倍の誤差があったとしても話しているのは2兆ドル規模の話だ。100倍の誤差があっても、それでも巨額だ」と語った。

US President Donald Trump in Japan

東京都港区の迎賓館で会談した高市早苗首相とトランプ大統領(10月28日)

Photographer: Franck Robichon/EPA/Bloomberg

  ホワイトハウスのデサイ報道官はこの件に関する詳細な質問への回答は控える一方、「トランプ大統領の取引手腕によって、米国内での製造や雇用のために数兆ドル規模の投資が確保され、米企業にとって数兆ドルの商業機会、数兆ドルの新たな輸出機会が生まれた」とコメント。「メディアのあら探しでこれらの事実が変わることはない」とも語った。

  企業経営者や外国政府当局者は、トランプ政権から望むものを得るためには、大規模な公的誓約が不可欠であることをすぐに学んだ。アラブ首長国連邦(UAE)の1兆4000億ドルの約束は、厳重に管理された米国製人工知能(AI)半導体へのアクセスをUAEに認める合意とセットで発表された。

対米投資基金

  日本と米国との関税合意に盛り込まれた5500億ドル規模の対米投資基金は、日本からの輸入品に対する関税率引き下げで鍵を握り、アップルの計6000億ドルの誓約には、数十億ドル規模の輸入関税の減免措置が伴った。

Trump Says ‘Fairly Substantial’ Chips Tariffs Coming ‘Shortly’

メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグCEO(左)とトランプ大統領(9月4日、ホワイトハウスの夕食会)

Photographer: Will Oliver/EPA/Bloomberg

  メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は9月、ホワイトハウスの夕食会で6000億ドルの誓約をめぐって言葉に詰まり、トランプ氏に謝罪する様子がオープンマイクで録音されていた。

  ザッカーバーグ氏は後に、トランプ氏への発言は自らの誓約を「明確にした」ものであり、現在では同社がその内容を全国テレビで宣伝していると説明した。

  現時点でトランプ氏が掲げる投資ブームは将来の投資誓約や、バイデン前政権期に始まった半導体プロジェクトやグリーンエネルギー施設の拡大をベースにしている。現在進行中のAIブームを考慮しても、2025年前半の国内民間固定投資は国内総生産(GDP)比で前年から横ばいだった。

  仮にトランプ氏の主張する新規投資のごく一部でも実現すれば、過去数十年で空洞化した米国の産業基盤を再構築する大きな一歩となり、広範な経済的恩恵をもたらす可能性がある。

  オバマ元政権で財務省チーフエコノミストを務めたハーバード大学のカレン・ダイナン氏は「長期的には、新たな資本の大規模流入が生産性と潜在GDPを大幅に押し上げ、それが労働者の賃金上昇につながる可能性がある」と述べた。

  BEがホワイトハウスのウェブページに掲載された137件のプロジェクトを分析したところ、実際の投資誓約と見なせる総額は7兆ドルだった。これは統計開始以来の米国への累計外国直接投資額を上回る規模だ。企業やホワイトハウスが示したスケジュール通りに全て実施された場合、年間1兆5000億ドル、GDPの約5%に相当する計算になる。

  ニューディール政策を研究するアリゾナ大学の経済学者プライス・フィッシュバック氏は、こうした急増は危機時を除けば前例がないと指摘する。大恐慌への歴史的対応では、政府支出がGDP比7%増加したが、それは10年をかけてのことだったという。フィッシュバック氏は、他の景気後退後では民間設備投資がGDP比4-5%回復するのにも数年を要したと話した。

  トランプ氏の主張が実現すれば、現在進行中のAI投資ブームは3倍に膨らむことになる。BEの試算では、AI関連の拡大は今年の米国の成長率を1ポイント押し上げる見込みだ。AIの拡大は既に電力や労働力といった資源の逼迫(ひっぱく)を招いており、一方で経済全体でホワイトカラー職の削減を招く恐れもある。バブル懸念も強まり、S&P500種株価指数の時価総額は10月終盤以降、最大で2兆ドル減少した。

  分析によれば、ホワイトハウスが掲げる誓約のうち2500億ドル超はトランプ氏が1月にホワイトハウスに返り咲く前に既に発表・計画されていた。また、残りのプロジェクトのうちどれだけが本来なら実施されていたものなのか、あるいは以前の計画の再配分に過ぎないのかを確認する方法はない。

  自動車業界の場合を例に見ると、政権が強調する投資の多くが、トランプ氏による電気自動車(EV)補助金の撤廃を受けて、内燃機関プロジェクトへの再配分となっている。

  結局のところ、革新に賭ける上で有望な国が少ない中で、米国は世界の長期投資家にとって引き続き比較的魅力的な投資先であり続けている。

  コーネル大学のエスワール・プラサド経済学教授はは「トランプ氏は二つの面で幸運に恵まれている」と指摘する。第一に「モメンタム(勢い)のある経済を引き継いだ」とし、第二に「就任時点で世界の多くが混乱しており、その後は一部トランプ氏の政策の影響もあって、さらに混乱が深まった」と説明した。

Trump Investment Social

 

Photo illustration: 731; Photo: Roberto Schmidt/Getty Images

原題:Trump’s $21 Trillion Investment Boom Is Actually Short Trillions(抜粋)

— 取材協力 Armand Emamdjomeh, Mark Gurman and Riley Griffin

WACOCA: People, Life, Style.