第一生命経済研レポート
2025.11.19
新興国経済
アルゼンチン経済
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~アルゼンチン中間選挙、与党の勝利で自由市場改革の継続に道筋~』(2025年12月号)
西濵 徹
目次
アルゼンチンでは10月、ミレイ政権に対する中間評価となる中間選挙が実施された。一昨年末に発足したミレイ政権を支える与党「自由の前進」は議会上下院双方で少数派に留まるが、『破たん国家』の立て直しを進めてきた。結果、一時は300%近くに加速したインフレ率は大きく鈍化して落ち着きを取り戻している。また、政権発足直後はその『ショック療法的』な政策運営が影響して貧困率が急上昇するなど国民生活は悪化したが、インフレ鈍化も追い風に貧困率は低下して政権発足前を下回るなど国民生活も改善している。しかし、国民の3分の1以上が貧困に喘ぐなか、足元では構造改革を追い風にした景気回復の動きは一服している。
こうしたなか、中間選挙の『前哨戦』として実施されたブエノスアイレス州議会選では、与党連合・自由の前進は最大野党「正義党」に惨敗した。同州は元々正義党の牙城という事情を考慮する必要はあるが、事前調査では善戦が予想されたため、予想外の惨敗により、金融市場では改革路線の頓挫が警戒されて『アルゼンチン売り』の動きが強まった。こうした事態を受けて、トランプ米大統領はミレイ氏を全面的に支援する考えを明らかにした。具体的には、米国がアルゼンチン国債を購入するほか、信用供与枠の提供、通貨スワップ協定を締結する方針が示された。しかし、トランプ氏は支援条件にミレイ氏の勝利を前提とする『注文』を付けた。


こうしたことから、トランプ氏による脅しが選挙結果に如何なる影響を与えるかが注目された。事前の世論調査では与党の苦戦が予想されたものの、予想外の形で与党が勝利を収める結果となった。議会下院では、改選議席である127議席のうち与党が64議席を獲得して改選前(37議席)から大幅に議席を増やした。その結果、与党は下院全体の3分の1以上の議席を確保し、大統領の拒否権が保持される。議会ではここ数ヶ月、野党が大統領の拒否権を覆す動きが相次ぎ、ミレイ政権が主導する構造改革に対する妨害工作が活発化していた。しかし、今後はそうした対応が困難になると期待されるため、金融市場では選挙結果を好感する動きをみせている。
今回の選挙結果は、選挙前に反政府デモの動きが活発化したように、国民はミレイ氏が主導する政策に必ずしも満足していないものの、アルゼンチンを破たん国家にした正義党に政権を渡すことはできないと判断したと捉えることができる。この結果を受けて、米国からの支援実施が期待され、不安定な動きをみせてきたペソ相場や国債を取り巻く環境は大きく好転すると見込まれる。その一方、足元の景気が勢いを欠く動きをみせるなか、今後は経済成長と雇用拡大の実現とともに、財政規律にも留意した政策運営を打ち出す必要性も高まっている。破たん国家の再生の道のりはまだ遠い状況にあることは間違いないであろう。


西濵 徹

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