2025年10月29日 5:15
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10月21日、記者会見するヤゲオのピエール・チェン会長(左)と芝浦電子の葛西晃社長 Photo:kyodonews
台湾電子部品大手の国巨(ヤゲオ)による、温度センサー大手の芝浦電子に対するTOB(株式公開買い付け)が10月20日、成立した。ヤゲオはミネベアミツミとのTOB合戦や外為法審査の異例の長期化などの障壁をものともせず、ディールを成功させた。この買収劇について、日本政府関係者からは「このままでは第二の芝浦電子が出てしまう」との懸念の声が上がっている。ヤゲオによる芝浦電子買収で露呈した、日本の経済安全保障上の「重大な問題」を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
8カ月に及んだ攻防戦はヤゲオのTOB成立で決着!
そこから日本政府が得るべき教訓とは…
台湾電子部品大手の国巨(ヤゲオ)による、温度センサー大手の芝浦電子に対するTOB(株式公開買い付け)が10月20日、成立した。
当初このTOBに反対した芝浦電子は、ホワイトナイトにミネベアミツミを立て、徹底抗戦の構えを見せた。ミネベアミツミの貝沼由久代表取締役会長CEO(最高経営責任者)は、ダイヤモンド編集部のインタビューに対し、不退転の決意を語っている(『ミネベアミツミ会長が芝浦電子のTOB価格引き上げは「積極検討」と明言!買収合戦の相手・台湾大手の出方は「想定内」、不退転の覚悟を語る』参照)。
ヤゲオとミネベアミツミは互いにTOB価格をつり上げたが、ミネベアミツミが先にギブアップし、TOB合戦から下りた。ヤゲオは7カ月に及んだ外為法(外国為替及び外国貿易法)の審査もクリアしたことで、この買収劇はヤゲオの完全勝利に終わった。
ヤゲオに買われることが不可避と悟った芝浦電子は、ヤゲオによるTOBに賛同を表明。21日にヤゲオと芝浦電子が共同で開いた記者会見で、芝浦電子の葛西晃社長は「(ヤゲオによる買収には)100%納得している」と語ったものの、その表情は硬かった。
対照的に、ヤゲオ創業者の陳泰銘・董事長(会長)の表情は喜びにあふれ、満面の笑みをたたえていた。しかも、「(他の日系企業と)ぜひ、いろいろ議論したい」と今後のさらなる企業買収をにおわせる発言をしている。
外為法の審査が長引いたことで、ヤゲオによるTOB表明からTOB成立までに約8カ月を要した上、ミネベアとのTOB合戦で買収価格が当初予定していた約600億円から1000億円超にまでつり上がった。ヤゲオにとっては想定外の障壁が二つ立ちはだかったことになるが、最終的にはディールはとりあえず「成功」に終わった。
ヤゲオによる芝浦電子買収について、ある日本政府関係者は「ヤゲオの例をきっかけに、海外企業の間で『日本企業は買いやすい』との認識が広まってしまえば、第二、第三の芝浦電子が出てしまう」と危機感を募らせる。今回の買収劇が、経済安全保障上の問題をはらんでいるというのだ。
次ページでは、ヤゲオによる芝浦電子買収で露呈した、日本の経済安全保障上の「重大な問題」を明らかにする。「第二の芝浦電子」を出さないためには、どうすればよいのだろうか。

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