ロシアとウクライナの戦争はいつ終わるのか。東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠さんは「領土問題が片付いたら休戦できるというのは誤解。現実には、どちらかが弓折れ矢尽きるまで戦闘が続く」という。『国際情勢を読み解く技術』(宝島社)より、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんとの対談を紹介する――。(第2回)
ウラジーミル・プーチン(2025年9月8日)(写真=www.kremlin.ru/CC BY 4.0/Wikimedia Commons)
国際情勢ネタは「大手メディア」も信用できない
【黒井】タブロイド紙に誤報が多いのは、ウクライナ侵攻に限らず、国際情勢ネタではよくあることですが、怪しい報道はタブロイドに限らない。米国の『ニューズウィーク』、『フォーブス』、『ブルームバーグ』などでも誤報はあります。それと、意外と誤報が多かったのが『ウォールストリート・ジャーナル』ですね。参考になる記事も多いのですが、国際紛争に関しては、未確認で裏取りがなくてもとにかく掲載、という方針っぽいです。
ニュースを追っていくうちに、それぞれのメディアのクセのようなものが経験則で見えてきて、そういう勘所みたいなものがないと、急なニュースの情報の扱いで間違う懸念があります。
【小泉】メディアのそういう性質みたいなものも、だんだんとわかってきますよね。やはり大事なのはこちらの情報の蓄積で、そうすることで相場観が見えてきます。
【黒井】メディアだけでなくて、シンクタンクのレポートでも、全部が全部、正しいわけではないことに留意が必要です。たとえば世界最高水準のイギリスの研究機関・RUSIでも、ウクライナ侵攻直後はロシア側の内部情報について間違った記述がありました。
そうした非公開の分野の内部情報は確認が難しいので、細かいミスはどこでも誰でも起こし得ます。日々のニュースの背景を知るためには、世界中のメディアやシンクタンクを参考にすべきですが、報道・報告される情報が絶対ではないことを、常に自覚する必要があります。そして、大事なのは複数の情報源で裏取りをする、クロスチェックの作業です。また、情報が更新されたら更新を躊躇ちゅうちょしないことも大事です。
記事の署名からわかること
【小泉】記者名も大事ですよね。ずっとニュースを追っていると、この分野はこの記者が強いということも見えてきます。
【黒井】アメリカの軍事マニア向けの新興サイト・ウォーゾーンが、ときどきウクライナ国防省情報総局のブダノウ長官の独占インタビューを掲載し、重要な情報を発信したりします。
ウォーゾーンには情報総局に強い記者がいるのですね。この人はもともとフロリダ州タンパの地方紙の新聞記者で、現地の米軍基地の担当で、フロリダ州の退役軍人会とか特殊作戦部隊OB人脈に太いパイプがある。そこから軍事記者をずっとやっていて、老舗軍事メディアの『ミリタリータイムズ』の上級編集者を経て、今はウォーゾーンの記者なのですが、一部の特殊部隊やそのOBにどうも強いコネがあるようです。
ウクライナの情報総局はおそらく米国の特殊部隊とコネがあるし、米軍OBがアドバイザーで入っていると思うのですよね。ウォーゾーンのブダノウ取材は、おそらく記者の個人的なコネだと思います。
【小泉】情報発信者の人名で情報を見ていく、という解像度は必要ですね。
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