アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展開の足がかりに

 10月13日、記録的な数の中国のレストランやカフェがこの1年間でシンガポールに進出した。写真は10日、シンガポール中心部の中国料理店が並ぶ通り(2025年 ロイター/Edgar Su)

[シンガポール 13日 ロイター] – 記録的な数の中国のレストランやカフェがこの1年間でシンガポールに進出した。活気に乏しい消費需要、過激な価格競争、極端に絞り込まれた利益率といった本国の状況から脱しようとして、この島国を国際的な事業展開の「試験場」として活用している。

シンガポールには新型コロナウィルスのパンデミック後の海外進出ブームに乗って火鍋店や麻辣料理店などが進出していたが、ラッキンコーヒー(LC0Ay.D), opens new tabやタピオカティー大手ミシュエ(2097.HK), opens new tabといった有名企業もこの流れに加わった。国際志向の強い都市国家のブランド力を当てにした動きで、業界専門家や企業幹部はこうした流れが今後加速するとみている。

湖南料理チェーン「農耕記」の海外事業ゼネラルマネージャーのジョシー・ジョウ氏は「中国は今経営が本当に厳しい状況だ。だから多くのブランドが海外進出を決めている」と語った。農耕記は世界展開の第一段階としてシンガポールを選んだ。

タピオカチェーン「茶百道」のシンガポール責任者ジョアンナ・ジア氏は恒常的な価格競争のために中国の飲食企業は新しい成長モデルを海外で模索する必要に迫られていると述べた。茶百道は7月、シンガポールでフランチャイズ形式の2店舗をオープンし、さらに2店舗の出店を予定している。

中国は新型コロナのロックダウンが終わってからほぼ3年が経つが、需要の低迷が成長を抑制している。長引く不動産市場の不振や米国の中国製品に対する関税が飲食、電子商取引(EC)、自動車などさまざまな分野で価格競争を助長し、デフレ圧力を強めている。

世界展開を目指す中国企業にとって、文化的に近いシンガポールは長い間海外進出の足掛かりとなってきた。シンガポールは米国が貿易障壁を引き上げている時期に、中国を含めた主要経済国と関係構築に積極的な国だ。

コンサルティング会社モメンタムワークスのデータによると、今年8月時点で約85の中国系飲食ブランドがシンガポールで約405店舗を運営しており、前年6月の32ブランド、184店舗から倍以上に増えた。

シンガポールの地元飲食企業は低価格の屋台から中規模事業者、ミシュラン星付きレストランでさえも、中国国内とちょうど同じように上昇するコストと消費支出の減少に立ち向かおうと苦労している状況で、中国企業の進出が記録的に伸びている。

中国ブランドの関係者は本国で生き抜く上で役立った効率的な経営モデルとサプライチェーン管理に頼ることができるため、シンガポールで成功できる見通しがあると自信を示した。中国国内では昨年、過去最多の300万店舗が倒産した。

たとえば喫茶店チェーンの「覇王茶姫」(CHA.O), opens new tabによると、社内開発した機械のおかげで、氷と砂糖の量を顧客の好みに応じて入れたアイスミルクティーをわずか8秒で提供できるという。こうした顧客の好みの変化に機敏に対応しはるかに低価格で多様な飲み物のメニューを提供することで、ラッキンコーヒーやミーシューといったブランドは中国市場でスターバックス(SBUX.O), opens new tabなど西側企業の成長を阻んだ。

ユーロモニターインターナショナルのデータによると、スターバックスの中国市場シェアは2019年の34%から24年には14%に急落。スターバックスは中国事業の一部売却を検討している。

メイバンクの中国担当エコノミストのエリカ・テイ氏は「シンガポール市場も厳しいが中国市場はもっと過酷だ。こうした企業はそういう状況を堪え忍んできた」と語った。

しかしながら、こうした中国企業のビジネスモデルは地元企業から反発を招いている。企業経営者700人を代表する「シンガポール公正賃貸テナント連合」は6月、ビジネス向け交流サイト(SNS)リンクトインに投稿した声明で「中国から中小企業が進出すると、しばしばシンガポールの大企業よりも経営規模が大きく、零細企業は競争条件が平等でない」と述べた。

<理想的な玄関口>

伝統的に東西文化の橋渡し役であるシンガポールの人口は610万人で大半が中華系。中国企業にとって理想的な海外展開の玄関口とされている。シンガポールは富裕層が集まる国でもあり、拠点を持つことはブランド戦略上重要だという。

茶百道のジア氏は「シンガポールでブランドを築ければ、マレーシア、ベトナム、インドネシアにさえも進出可能だ」と話した。

中小の中国ブランドも潤沢な資金を持つ投資家から支援を受け、好立地を地元企業より高額でしばしば借りている。

たとえば、上海のミシュラン一つ星の「甬府」は昨年、1000万シンガポールドル(約7億7200万米ドル)を投じてシンガポールに進出した。この資金は改装費とともに、家賃、人件費、ワインセラーなど約5年間のその他の運転資金も補うという。

しかしながら、不動産会社ナイトフランクの個人部門責任者イーサン・スー氏によると、大型中国企業の進出が商業地の賃料を押し上げており、特に人通りの多い地域ではスペースの供給件数が細っているという。

さらに、料理評論家KFシートー氏は、中国レストランの急増が「シンガポールの食文化の有機的な構造を弱めている」と批判している。

こうした要因があっても、中国企業が本国の価格競争から逃避しようと押し寄せてくる流れは止まらないだろう。

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Xinghui Kok

Xinghui leads the Singapore bureau, directing coverage of one of the region’s bellwether economies and Southeast Asia’s main financial hub. This ranges from macroeconomics to monetary policy, property, politics, public health and socioeconomic issues. She also keeps an eye on things that are unique to Singapore, such as how it repealed an anti-gay sex law but goes against global trends by maintaining policies unfavourable to LGBT families. https://www.reuters.com/world/asia-pacific/even-singapore-lifts-gay-sex-ban-lgbt-families-feel-little-has-changed-2022-11-29/

Xinghui previously covered Asia for the South China Morning Post and has been in journalism for a decade.

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