未知のスーパーライト級へ進出

 「自分の練習に自信を持っている。世界でもっとも優れたファイターの一人であることを証明したい」(リングマガジン日本語版より)

大した自信である。WBA世界スーパーフェザー級王者ラモント・ローチJr(米)が次戦の正式発表の際に発した言葉だ。ローチ(25勝10KO1敗2分=30歳)は12月6日、米テキサス州サンアントニオのフロスト・バンク・センターでWBCスーパーライト級暫定王者“ピットブル”ことイサック・クルス(メキシコ)に挑戦する。前回3月、WBA世界ライト級王者ジェルボンテ“タンク”デービス(米)に挑んだローチは2階級越えで暫定王座ながら2階級制覇に挑む。

一見、意外なマッチメイクに思える。デービスとフルラウンド戦いドローの裁定が下ったローチは、その試合内容からダイレクトリマッチが組まれる見込みだった。しかし当初、噂された6月開催がなくなり、最終的に8月16日の線も消滅。タンク・デービスは“ビジネス”を優先し、ユーチューバーでクルーザー級ランキングボクサー、ジェイク・ポール(米)とのエキシビションマッチを締結させた(11月14日・米マイアミ)。

ボクシングを復活させたい

それでもローチは、スーパーフェザー級に戻り防衛戦を行う、あるいはライト級で別のチャンピオンに挑戦する選択肢もあった。いきなり未知のクラス、140ポンド(スーパーライト級)へ舵を切るとは予想外。最近ではテレンス・クロフォードがサウル“カネロ”アルバレスを下してスーパーウェルター級からミドル級を飛び越えてスーパーミドル級4団体統一王者に就いたケースがあるが、果たしてローチには勝算があるのだろうか。

「俺にはたくさん披露するものがあると言っただろ。前回のタンクとの試合の時、試合当日まで俺が何をしてここまで来たか、みんなに話した。ボクシングを復活させたいんだ。俺は昔気質のボクシングを復活させたいんだ。ボクシングを栄光ある時代に戻したい。ピットブル・クルスと階級を変えて戦うことを受けたのは『俺がここにいるってこと、そして絶対にみんなに最高のファイトを見せること』を約束したいからなんだ」

ローチは不退転の決意を明かす。既定路線だったデービスとの再戦が見送りになっても次なる目標に突き進む。ポールとの実利主義を選んだデービスとは何と異なるだろう。少なくともローチの言葉には崇高なスピリットが読み取れる。

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さらにローチのモチベーションを刺激するのはクルス戦の後だという。リングマガジンによると、クルスに勝てば標的に据えるWBC世界スーパーライト級王者スブリエル・マティアス(プエルトリコ)との統一戦が実現に近づくとローチ。スーパーフェザー級やライト級に未練はなく、140ポンドでレガシーを築きたいと明かす。

オッズはローチ有利

だが、それは楽な仕事ではない。“ピットブル”(闘犬)ことクルスは典型的なスラッガータイプ。WBA世界スーパーライト級王座を小差の判定負けでホセ・バレンスエラ(メキシコ/米)に明け渡したものの、その後2連勝して最新戦でWBCスーパーライト級暫定王座を獲得した。

メキシコではカネロ・アルバレスに代わるエース候補とも期待される。2021年12月にタンク・デービスに挑戦しフルラウンド戦った実績も追い風になるだろう。戦績は28勝18KO3敗1分。

ただクルス(27歳)は直近の2試合は判定決着で、自慢の強打は湿りがち。そのあたりをローチは組み易しと判断したのかもしれない。とはいえ、軽いクラスから上がるローチにとり危険な相手であることは確かである。

クルスのビジネスマネジャーのショーン・ギボンズは「これはイサックにとってキャリア最大のファイトになるだろう。タンクとの一戦よりもビッグなものになる。なぜならカネロがクロフォードに負けた後、メキシコのファンはビッグイベントに登場するニュースターを求めているからだ」と公言して止まない。

クルス(右)がWBC・S・ライト級暫定王者に就いたオマール・サルシド戦(写真:Esther Lin / PBC)クルス(右)がWBC・S・ライト級暫定王者に就いたオマール・サルシド戦(写真:Esther Lin / PBC)

私はクルス有利のオッズが立ってもおかしくないと思っていたが、チェックしてみるとアメリカ式の表記でローチが-240、クルスが+182とローチがおよそ2-1、クルスは約1.8倍と挑戦者に傾いている。

同じリングで、WBO・IBF世界ミドル級統一王者ジャニベク・アリムハヌリ(カザフスタン)vs.WBA世界ミドル級王者エリスランディ・ララ(キューバ)の3団体統一戦が内定している。勝者がクロフォードの挑戦を受ける話が浮上しており、こちらも見逃せないカードになる。

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