下院で首相質問に臨むダークスーツ姿のスターマー首相を後ろの閣僚席から見ている レイナー氏。白い上着を着ている

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画像説明, 英副首相の職を辞任する前のレイナー氏(左)とスターマー英首相(3日、イギリス下院)

2025年9月6日

イギリスのキア・スターマー首相は5日、大幅な内閣改造を行った。首相を長く支えてきたアンジェラ・レイナー副首相が、住宅購入をめぐる税金の過少納付問題で辞任したのを受けてのもの。政権交代による労働党政権発足から1年2カ月で、最大規模の内閣改造となった。

閣僚の約半数が交代し、外相だったデイヴィッド・ラミー氏が後任の副首相に、新外相にはイヴェット・クーパー内相が、新内相にはシャバナ・マムード司法相が就任した。

レイチェル・リーヴス財務相、ジョン・ヒーリー国防相、ウェス・ストリーティング保健相、リサ・ナンディ文化相は、それぞれ留任した。

クーパー内相が外相に就任し、リーヴス氏が財務相に留任したことで、イギリス史上初めて、首相を含めて内閣で最も重要とされる三つの役職のうち二つを、女性が務めることになった。

レイナー氏については、イングランド南部ホーヴの住居購入時に印紙税を十分に支払わなかったことが、閣僚行動規範の違反にあたると、首相倫理顧問が5日に判断を示した。これを受けてレイナー氏は同日、副首相、労働党副党首、住宅担当相の職を辞任した。

レイナー氏は辞表の中で、住居購入にあたり専門的な税務上の助言を求めなかったことを「深く後悔している」と述べたほか、問題発覚後に職にとどまることで家族に「耐え難い」負担をかけたと書いた。

野党時代から長く協力し合ってきたレイナー氏の辞任は、スターマー首相にとって打撃となる。これに先立ち首相は、官邸の顔ぶれを刷新したばかりだった。

スターマー氏は下院審議が9月1日から再開したのに合わせて、政権は「第2段階」に入るとして、閣僚の交代もいくらか予定していると話していた。しかし、レイナー副首相の辞任に伴い、より本格的な内閣改造を実施することになった。

短い金髪に青いスーツ姿のクーパー氏、短髪でダークスーツのラミー氏、黒い長髪に水色のスーツのマムード氏画像説明, (左から)スターマー英首相の内閣改造により新しく就任した、クーパー新外相、ラミー新副首相、マムード新内相

住宅購入めぐる過少納税

レイナー氏は10年前にイングランド北部グレーター・マンチェスターのアシュトン・アンダー・ライン選挙区で初当選した。元介護士で労働組合の活動家として知られていた。党内および政府内で影響力を持つに至ったものの、今年5月に購入したイングランド南部ホーヴにある80万ポンド(約1億5900万円)の住宅について、印紙税の納付額が過少だったと8月末から報道されるようになった。

印紙税の額は、購入不動産が主な居住地かそれ以外かによって異なるため、レイナー氏の主な住居がどこかをめぐり税額に違いが生じた。レイナー氏は、障害のある息子のための信託基金を設けており、この基金の複雑な取り決めから、ホーヴのマンションは税務上、副首相の主な居住地ではなく、2軒目の所有不動産として扱われるべきで、そのため副首相が収めたよりも高い印紙税の対象となる決まりだった。

レイナー氏の事務所は当初、英紙デイリー・テレグラフによる8月28日の報道を受けて、同氏が印紙税を正しく支払っていたと説明していた。しかし、レイナー氏は29日夜、弁護士に状況の再検討を依頼。法廷弁護士は9月3日に、同氏が正しい額の印紙税を納めていないと報告した。

レイナー氏は過少納付を認め、「今回の誤りを深く後悔している。私はこの問題を完全に解決し、公的サービスに求められる透明性を確保することに尽力する」と述べた上で、首相倫理顧問のサー・ローリー・マグナスに判断を仰いでいた。

副首相の報告を受け、その行動を閣僚行動規範に照らして調べたサー・ローリーは、レイナー氏が「誠実に行動した」としながらも、購入時に適切な税務助言を求めなかったことで閣僚規範に違反したと判断した。

「10 Downing Street(ダウニング街10番地)」と一番上に印刷された首相専用の便せんに、青いインクの手書きの文字で、レイナー副首相の辞表の受理と、決断を支えると伝える内容が書かれている

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画像説明, 「Dear Angela(親愛なるアンジェラ)」で始まるスターマー首相の手書きの返信。便せん3枚に及んだ(英首相官邸提供)

レイナー氏は辞表の中で、「最近の不動産購入に関して、最高水準を満たしていなかったことを認める」と述べ、「正しい額を納めるつもりで、それ以外の意図は決してなかった」と付け加えた。

辞表に対してスターマー首相は、「彼女を政府から失うことは非常に悲しい」と書き記し、「信頼できる同僚で、真の友人だ」と述べた。

「親愛なるアンジェラ」で始まる首相の返信は、便せん3枚にわたる異例の手書きで、副首相への友情を表したものと受け止められている。

ダウニング街の首相官邸閣議室のテーブルに座ったスターマー氏が閣僚に語り掛け、その隣で白い服を着たレイナー氏が微笑んでいる

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画像説明, 政権交代とスターマー政権発足後、2024年7月9日に官邸で初の閣議に臨んだスターマー首相と当時のレイナー副首相

閣僚の約半数が交代

レイナー氏の辞任に伴い、労働党政権発足から1年2カ月で最大規模の内閣改造が実施された。

副首相の後任にラミー外相が就いたほか、レイナー氏が兼務していた住宅担当相にはスティーヴ・リード氏が任命された。

クーパー新外相の後任として、新内相になったマフムード氏は、これまで法相と大法官だった。刑務所の過密状態解消などを目指す刑務所改革の重要法案を今月、議会に提出したばかりだった。

大規模な内閣改造に加え、レイナー氏の辞任により、労働党の党員による副党首選挙が行われる。予定の詳細は未定だが、スターマー氏の指導力に対する不満を党員が表明する場となる可能性がある。

与党・労働党が内閣改造で揺れたこの日、野党リフォームUKはイングランド中部バーミンガムで年次党大会を開いた。ナイジェル・ファラージ党首は、レイナー氏の辞任に合わせて基調演説を昼に前倒しし、政府が「危機に陥っている」と述べた。

最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、「スターマー政権の第2段階は3日も持たなかった。副首相から閣僚行動規範に違反したと伝えられても自ら副首相を解任するだけの力がなく、今は沈みゆく政府のデッキチェアを並べ替えているだけだ」と批判した。

野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、「キア・スターマーが本気でこの国の問題に立ち向かい、取り組む覚悟がない限り、閣僚席に座るのが誰でも違いはほとんどない」と述べた。

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