フランスの政治危機が高まる中、アナリストや投資家は、同国の銀行が拡大する危機によるリスクをなんとか乗り越えられるとの見通しを示している。ただし、その道は平坦とは限らない。

  6日のルコルニュ首相の突然の辞任表明により、BNPパリバ、クレディ・アグリコル、ソシエテ・ジェネラルの株価は今週下落した。フランスは再び政治的混乱に陥り、国のソブリンリスクを示す指標が、今年の最高水準に達した。

  危機の封じ込めと投資家の安心感回復に向け、首相が各党と協議を続ける中、銀行株は8日、フランス債と共に一部回復している。

  マクロン大統領は退任予定のルコルニュ氏に対し、8日夜を期限として政党間の合意形成を最後に試みるよう要請した。これまでのところ、持続可能な道筋は見えていない。

  政治的、財政的な不安定化を受け、投資家はフランス資産を売却しており、同国の資金調達コストは他の欧州諸国と比べて上昇している。財政リスクを示す主要指標であるフランス債とドイツ債の利回り差(スプレッド)は、6日に年初来の最高水準に達した。フィッチ・レーティングスは9月、フランスの長期外貨建て債務格付けを「AA−」から「A+」へ引き下げており、S&Pグローバルも11月にフランスの格付けを更新する予定だ。

低い保有比率

  この事態は、10年以上前の欧州債務危機を思い起こさせる。当時は悪化する財政により、国債を保有する銀行と各国政府との間に「負の連鎖」が生じるとの懸念を招いた。だが今回、アナリストらは、真のリスクは銀行の国債保有そのものではなく、再調達コストの上昇や景気減速といった二次的な影響にあると指摘している。

Sebastien Lecornu

退任するフランスのルコルニュ首相

Source: AFP

  ジェフリーズのアナリスト、ジョセフ・ディッカーソン氏は「フランス国債を保有する銀行にとって、足もとのファンダメンタルズ面でのリスクは限定的だ。本当のリスクは実体経済への波及効果にある」と述べた。

  欧州債務危機の中心にあったイタリアやスペインの銀行とは異なり、フランスの銀行は自国債の保有比率が低い。欧州中央銀行(ECB)のデータによると、フランスの銀行が保有する自国債は総資産の約6%にとどまる一方、イタリアは12%、スペインは8%となっている。フランス国債の過半は、海外投資家が保有している。

  アリアンツ・グローバル・インベスターズの金融クレジット調査ディレクター、サイモン・ウタン氏は「現時点のボラティリティーの高い環境下でも、現在の国債保有規模は問題にはならない」との見方を示した。

限定的

  銀行は一般的に自国の国債を保有し、それを流動性管理や顧客の投資運用に活用している。ただ、ウタン氏によると、こうした国債の大部分は時価ではなく償却原価で貸借対照表に計上されているため、減損やヘアカット(債務減免)が発生しない限り、市場変動の影響は受けない。

  アナリストらは、そのような事態は極めて起こりにくいとみている。ジェフリーズのディッカーソン氏も「フランス国債にヘアカットが適用されるとは思わない」と述べた。

  ブルームバーグ・インテリジェンスのまとめによると、BNPパリバ、ソシエテ・ジェネラル、クレディ・アグリコルの3行が保有するフランス国債は、合計約370億ユーロ(約6兆5600億円)に上る。銀行グループの保険事業を加えれば、保有額はさらに拡大する。

  クレディ・アグリコル・グループの広報は、メールで「当グループのフランス国債へのエクスポージャーの大半は、会計処理上、評価変動の影響を受けない。スプレッドの変動が、中核的自己資本比率に与える影響は非常に限定的だ」とコメントした。BNPパリバとソシエテ・ジェネラルの広報は、フランス国債保有についてのコメントを控えた。

二次的影響

  原則として、フランスの銀行には、格下げが起きた場合であっても自国債への投資を禁止する規制は存在しない。ただし、ウニクレディトが7日公表したリポートによると、フランス国債の55%を保有する海外投資家の場合は、事情が異なる可能性がある。

  同リポートは、大きな海外保有比率が「政治的不安が長引いた場合、市場のボラティリティーを高める可能性がある」と指摘し、「フランス債とドイツ債のスプレッドが大幅に拡大する複数のシナリオが想定される」と指摘している。

  政府の借り入れコスト上昇は、銀行の再調達コストを押し上げる可能性があり、これが貸出利ざやを圧迫するおそれもある。フランスの銀行は、近年の金利上昇ですでに打撃を受けており、ようやく回復過程にあったところだ。

  カーマニャックの投資委員会メンバー、ケビン・トゼ氏は「資金調達コストの上昇と政治的不透明感は、企業の設備投資や消費者の支出意欲を冷やし、貸出需要を抑える一方で、不良債権の増加につながる可能性がある」と述べた。

  同氏は「フランスの銀行にとって最大の問題は、フランス債というより、むしろフランス経済へのエクスポージャーそのものだ」と語った。

原題:French Banks Sovereign Risk Seen Manageable as Crisis Deepens(抜粋)

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