星野リゾートが奈良市北部の般若寺町にて進めている、国の重要文化財・旧奈良監獄を保存・活用するプロジェクトの続報です。
建物をホテルと展示施設にアダプティブリユースする計画のうち、先行してオープンする〈奈良監獄ミュージアム〉の開業日が2026年4月27日と発表されました。

シンボルマークのデザインなどアートディレクションをデザイン事務所・TSDOを率いる佐藤 卓氏が担当。ルーヴル美術館ランス別館などの常設展示デザインのほか、テキスタイルデザイナーの須藤玲子氏の作品インスタレーションでもコラボレーションしている、フランスのアドリアン・ガルデール(Adrien Gardère)氏がミュージアムの展示監修を務めます。

旧奈良監獄 鳥瞰(2019年撮影)

旧奈良監獄 鳥瞰(2019年撮影)

コンセプトは「美しき監獄からの問いかけ」

旧奈良監獄は、明治政府によって計画された五大監獄[*1]のうち、唯一現存する貴重な歴史的建造物です。
〈奈良監獄ミュージアム〉は、建物の保存を担うとともに、その建築美や歴史的価値を未来へと継承していくための拠点となることを目指して再生されます。
コンセプトは「美しき監獄からの問いかけ」。訪れる人が、自らと対話し、生き方をも見つめ直すきっかけを提供する、新たなミュージアムのあり方を目指すとのこと。

旧奈良監獄

旧奈良監獄 外観

奈良監獄ミュージアム(保存棟および展示エリア)計画概要

建築面積:1,860m²
延床面積:2,463m²
敷地面積:100,478.80m²(星のや奈良監獄を含む)
耐震対策工事 技術指導:文化財保存計画協会
耐震対策工事 設計監理(総括):安井建築設計事務所
耐震対策工事 設計監理(耐震補強):飯島建築事務所
ランドスケープデザイン:オンサイト計画設計事務所
耐震対策工事 工事請負:戸田建設 大阪支店
内装、展示設計・施工::乃村工藝社
アートディレクション:TSDO(佐藤 卓主宰)
展示監修:スタジオ・アドリアン・ガルデール
※2026年開業予定ホテル事業(星のやなら監獄)計画:東環境・建築研究所(代表:東 利恵)

保存・活用プロジェクト概要(2023年9月発表時点)

「星のや奈良監獄」2026年春開業予定、東環境・建築研究所によるホテル計画、オンサイト計画設計事務所がランドスケープデザインを担当

旧奈良監獄 内観 中央看守所

旧奈良監獄 内観 中央看守所

展示構成

〈奈良監獄ミュージアム〉の展示は、A・B・Cの3棟から成ります。棟ごとに設定されたそれぞれのテーマを巡る来館者が、多角的な視点からの「問い」に出会い、建物の歴史などへの思いを深めていくことを企図しています。

A棟:歴史と建築:赤レンガに刻まれた記憶に思いを馳せ、日本の行刑や奈良監獄の建築的特徴を知るエリア
B棟:身体と心:被収容者の視点で刑務所での生活やルールを紹介。規律に縛られた刑務所の生活を知り、想像し、客観的に見つめることで、自分自身の生き方に通じる「問い」に迫るエリア
C棟:監獄と社会:「監獄」をさまざまな価値観や切り口で表現するエリア。開館時には、国内外で活動するアーティストが監獄から受けたインスピレーションとそれぞれの感性で制作した作品を展開する予定

展示室イメージ
奈良監獄ミュージアム 展示イメージ

展示エリア イメージ

奈良監獄ミュージアム 展示イメージ

展示エリア(A棟)イメージ

奈良監獄ミュージアム 展示イメージ

展示エリア(B棟)イメージ

 

クリエイタープロフィール&コメント
アートディレクター

佐藤 卓(さとう たく)氏
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了後、電通勤務を経て、佐藤卓デザイン事務所(現称:TSDO)設立、同主宰。
「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインをはじめ、ポスターなどのグラフィック、商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。NHK Eテレ「デザインあ」「デザインあneo」の総合指導を担当。21_21 DESIGN SIGHTディレクター兼館長を務め、展覧会も多数企画・開催。2025年4月京都芸術大学学長に就任。毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章など受賞多数。

佐藤卓(さとう たく)氏 近影

「魅力的で貴重な建築として残る奈良監獄をミュージアムにするという企画の面白さにまず惹き込まれました。私が長年取り組んできたデザインの視点で物事を解剖する手法も取り入れながら、時間を掛けて内容を詰めてきました。罪と罰を考察すると、自由とは何かという深い世界にも触れることになり、さまざまな角度から試行錯誤を繰り返してきました。そして現代の刑務所もあるべき姿を模索し続けていることをこの仕事で知りました。来館者の皆様に、さまざまな問い掛けをする展示になっていれば幸いです。」(佐藤 卓)

奈良監獄ミュージアム シンボルマーク

奈良監獄ミュージアム シンボルマーク

奈良監獄ミュージアム オリジナルグッズ イメージ

奈良監獄ミュージアム オリジナルグッズ イメージ
付帯のショップでは、オリジナルグッズのほか、全国の刑務所で製作されたCAPIC · キャピック品のギャラリーも併設、商品の販売も予定されている

展示監修 / Museography Supervisor

アドリアン・ガルデール(Adrien Gardère)氏
トロントのアガ・カーンミュージアム(設計:槇 文彦 / 槇総合計画事務所)や、ルーヴル美術館ランス別館(設計:妹島和世+西沢立衛 / SANAA)、ロンドンのロイヤル・アカデミー(設計:デヴィッド・チッパーフィールド / David Chipperfield Architects)など、世界13カ所以上の美術館で常設展示デザインを手がける。日本国内では2018年に国立新美術館で開催された「こいのぼりなう! 須藤玲子×アドリアン・ガルデール×齋藤精一によるインスタレーション」が話題を集めた。

アドリアン・ガルデール(Adrien Gardère)氏 近影

©︎yuz museum shanghai estate Giacometti Photo by Tony Wu

「これまでの知見を余すことなく活用して、奈良監獄のコンテキストを読み解き、そして紡ぎながら”建築遺産”を”ミュージアム”として生まれ変わらせることに取り組みました。世界に展開したハビランド・システム[*2]の歴史、刑務所での被収容者の体験を知り想像することは、人々の普遍的なテーマについて考える糸口を提供し、それらを巡るジャーニーは訪れる皆様を惹きつける体験になるでしょう。皆様の来館を心よりお待ちしております。」(アドリアン・ガルデール)

ルーヴル美術館ランス別館 展示風景

ルーヴル美術館ランス別館 展示風景
Philippe Chancel / SANAA / Studio Adrien Gardère

 

*1.明治五大監獄:1901年に建設を開始した旧奈良監獄のほか、長崎監獄、金沢監獄、千葉監獄、鹿児島監獄を指す(後続の4つは現存せず)
*2.ハビランドシステム:英国生まれで米国で活躍した建築家ジョン・ハビランド(1792-1852)が提唱、監獄建築で実践した受刑者監視システムを指す。1825年に米国フィラデルフィアのイースタン州立刑務所の設計において同システムを確立させたとされる。建物の中心に監守が立つ監視所を置き、そこから複数の収容棟を放射状に配置することで、看守の目が全方位の収容棟に行き届く平面構成となっている(参照元:「旧奈良監獄アーカイブス ウェブサイト「ハビランド・システム」)

旧奈良監獄

旧奈良監獄 外観(鳥瞰)

奈良監獄ミュージアム 施設概要

所在地:奈良県奈良市般若寺町(はんにゃじちょう)18(Google Map)
開館時間:9:00-17:00(最終入館 16:00)
休館日:なし(ただし、メンテナンス休館を除く)
料金:大人 2,500円~
付帯施設:カフェ&ショップ
公式ウェブサイトオープン:2025年9月25日
開業日:2026年4月27日
チケット販売開始日(予定):2026年2月

奈良監獄ミュージアム カフェメニュー イメージ

奈良監獄ミュージアム カフェメニュー イメージ(オリジナルカレーパンとご当地ソーダ)

奈良監獄ミュージアム 公式ウェブサイト
https://hoshinoresorts.com/nara-prison-museum/ja

旧奈良監獄 施設概要
沿革

1908年 奈良監獄 竣工
1922年 奈良刑務所に改称
1946年 奈良少年刑務所に改称
1991年 第1回「奈良矯正展」開催、以降定期的に開催される
2008年 設立100周年
2017年 文化庁が国の重要文化財に指定、同年3月31日廃庁

設計者・山下啓次郎プロフィール
山下啓次郎

肖像写真提供:星野リゾート

1868年(明治元年)1月に現在の鹿児島市に生まれる。帝国大学造家学科(現・東京大学工学部建築学科)に入学、辰野金吾(1854-1919)に師事。卒業後は警視庁に入り、巣鴨監獄建設に携わる。1897年(明治30年)5月に司法省営繕の業務に携わる(のちに営繕課長)。旧奈良監獄の着工前に欧米約8カ国を歴訪、 約30の監獄建築を視察。その知見を活かし、帰国後に明治五大監獄[*2]をはじめ、数多くの裁判所、監獄の建設に関与する。法政大学工業学校(現・法政大学)の校舎も設計し、司法省退官後に校長に就任。1931年(昭和6年)没

※参照元:法政大学ウェブサイト 広報誌『HOSEI』アーカイブより)

 

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