トランプ米大統領が打ち出した専門技術者向けのH-1Bビザ規制は、先週まで改善の兆しを見せていた米国とインドの関係に新たな打撃を与え、迅速な貿易協定締結へのハードルが一段と高くなった。
新たなH-1Bビザ申請に対する10万ドル(約1480万円)の手数料は、これまでビザ取得者の70%以上を占めてきたインド人に大きな影響を及ぼす。2800億ドル規模のインドのテクノロジーサービス業界には衝撃が走り、ビジネス・アウトソーシングモデルを脅かすとともに、多くの雇用がリスクにさらされることになる。
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トランプ氏は8月、インドの輸出品に対し50%の関税を課し、長年にわたる米国の外交政策を覆した。インドがロシアから石油を輸入していることに対する圧力を強めることも高関税の目的の一部だった。
先週には米印貿易協議が再開され、トランプ氏がモディ首相に誕生日の電話をかけたことで、両国間の緊張は和らいだようにも見えたが、今回の突然のビザ規制の発表により、関係改善の兆しは再び疑問視されている。
ニューデリーに拠点を置く研究機関「社会開発評議会」のビスワジット・ダール氏は「これは米印関係にとって棺桶に打ち込まれた大きな釘だ」と、述べ、「10万ドルの費用はサービス分野における非関税障壁に等しく、インド人の専門職を締め出すことを狙ったもので、両国関係に深刻な打撃を与える」との見方を示した。
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H-1Bビザに関するニュースは、今週のゴヤル商工相の訪米直前に伝えられた。ゴヤル氏は貿易交渉に臨む予定で、ジャイシャンカル外相も22日にニューヨークでルビオ米国務長官との会談を予定しており、ビザ問題も議題に上がる見通しだ。
これまで米印貿易協議は主に財に焦点が当てられており、ITや金融などのサービス分野は対象外だった。しかし、トランプ政権のビザ制度見直しにより、インドのサービス主導型経済も貿易摩擦の渦中に巻き込まれることとなった。
野村ホールディングスのアナリスト、ソナル・バルマ氏は、このビザ政策がインドの中期的な成長リスクを高め、政府に対し内需拡大の圧力を強めるとも指摘する。サービス分野は国内総生産(GDP)の約55%を占め、製造業の17%を大きく上回っている。
原題:Trump’s Visa Shock Strains India-US Ties, Clouds Trade Talks
(抜粋)
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