世界最大の株式デリバティブ(金融派生商品)市場であるインドで、高速トレーディングを手がける金融各社が新卒採用者の給与を急速に引き上げている。当局による規制強化が進む中でも、その勢いは衰えていない。

  事情に詳しい複数の関係者によると、アムステルダムに本社を置くIMCトレーディングは今年、インドで新卒者に月額最大125万ルピー(約210万円)を提示。2024年の水準から3倍に跳ね上がったという。

  インドで多くの人材を募るクオンツ企業クアッドアイでは、新人の給与は最大75万ルピーと、前年から50%増えた。求人情報サイトのグラスドアによれば、インドで金融プロフェッショナルの平均年間基本給は70万ルピー前後にとどまる。

  個人投資家の損失抑制に向けた規制強化で、デリバティブ取引は昨年のピークから40%余り減少した。しかし、こうした積極的な採用と破格の給与水準はなお続いている。

  その背景には、世界最大の取引規模を誇る株式デリバティブ市場がもたらす巨大な収益機会がある。アルゴリズムを用いた自己勘定取引部門や外国ファンドは、24年3月までの1年間だけで70億ドル(約1兆円)の粗利益を上げた。

  アクイス・サーチでクオンツおよびトレーディング技術に関する採用の共同責任者を務めるダニエル・ヴァズ氏は「利益を生み出すトレーダーの需要は相変わらず強い。毎月のように新規デスク設置の問い合わせがあり、インドでは一流のトレーダーやクオンツリサーチャー、トレーディングシステムエンジニアの獲得競争が激化している」と話す。

  自己勘定トレーディングの米ジェーン・ストリート・グループを巡る調査結果が発端となり、インド証券取引委員会(SEBI)は市場の監視をさらに強化する構えを見せている。それでも国内外の大手プレーヤーは手を引こうとしていない。

  SEBIは7月、ジェーン・ストリートに対し、インド株式デリバティブ市場での不正取引で多額の利益を得たとして、市場へのアクセスを一時的に禁止。一方、これに異議を申し立てた同社は、市場操作の嫌疑を晴らすために必要な重要文書へのアクセスを認められなかったとして提訴。命令の取り消しを求めている。

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インド証券当局、ジェーン・ストリートの市場アクセスを禁止

Source: Bloomberg

  エスティ・アドバイザーズなど高速取引サービスを提供するブローカーによれば、最近の状況を受けて慎重になった潜在顧客もいるものの、この分野への参入を検討する企業は依然として確実に存在する。

  事情に詳しい複数の関係者の話では、ベンガルールに本拠を置くオプティマス・プライム・セキュリティーズ・アンド・リサーチは最近、高速取引事業を拡大。医療や教育テクノロジー分野で事業を展開するビラキア・グループも、ミニックス・ホールディングスを通じて同様の事業拡大を計画しているという。

  一方、米著名投資家ケン・グリフィン氏率いるシタデル・セキュリティーズは先月、インドでオプショントレーダーを採用。今後もインド事業拡大に向けて人員を増やす計画だとブルームバーグ・ニュースは先に報じた。 

  エスティ・アドバイザーズの創業者サンディープ・ティヤギ氏は顧客とのやり取りを紹介し、「ジェーン・ストリートを巡る問題の一部が解明される中で依然として関心は極めて高く、今後さらに強まるだろう」と述べた。

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原題:Interns Making $14,000 a Month Underscore Quant Demand in India(抜粋)

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