楽しくなければ落語じゃない 〜 こども落語全国大会 最優秀賞 のりのり亭 おむすび 松本 滉正さん
持ち味の〝勢い〟を生かし会場を沸かせ、念願の日本一に── 宮崎県で7月26日、27日に開かれた「第15回ひむかの国こども落語全国大会」で、「のりのり亭おむすび」こと和歌山市立宮北小5年の松本滉正さんが小学生の部で最優秀賞に輝いた。高座の第一声「楽しくなければ落語じゃない!」は、自分らしくやっていいという気づきから生まれたモットーだ。
観客の笑い 力に
全国の小学生から高校生まで、落語好きの子どもたちが実力を競う同大会。今年は45人が参加し、小学生の部と中高生の部の予選を経て、それぞれ4人が決勝に進んだ。
最優秀賞の賞状を手に。「大人になっても落語を続けていきたい」と笑顔で語る
選んだ演目は、車夫と客の掛け合いが笑いを誘う『いらち俥(ぐるま)』。昨年、噺家の高座を見て、「自分の持ち味の〝勢いある落語〟にぴったり。やってみたい」と練習を始めた。今年2月、弟の「のりのり亭おにぎり」こと松本あさひさん(同小3年)と開いた兄弟寄席や、6月に兵庫県で開催された「出石永楽館・全国子ども落語大会」で披露し、自信を付けた。
宮崎の大会決勝では、目を見開いたりおどけた表情をしたり、〝変顔〟も随所に取り入れ、会場を沸かせた。最初のマクラから一気に盛り上げ、オチまで駆け抜けるのが〝おむすび流〟。観客の笑いを力にし、「時間を忘れるほど熱中しました」と振り返る。
審査発表の瞬間は、「『のり』と聞いて『あれ?僕?』ってなって、『おむすびさんです』と言われて目の前が真っ白になりました」。跳び上がって喜びを爆発させ、大きな拍手を浴びた。同大会は今年が終幕。最後のチャンスで念願の日本一に輝いた。
自分らしい舞台
5年前、落語団体「わかやま楽落会」の祖父の影響を受け、弟と一緒に落語を始めた。ところが、上手く演じようとの意識が先走り、なかなか笑いが取れない。受賞続きの弟に「負けた」と感じ、涙を流す日もあった。
「辞めようかな」。沈んだ気持ちのまま寄席の出番を待っていたある時。入会当初から成長を見守っていた同会会員が舞台袖まで来て、「面白くなかったら落語とちがうよ。自分らしく楽しんでおいで」と背中を押してくれた。その瞬間、「思いっきりやっていいんや」と目が醒めた。
この日を境に誕生したのが「勢いある落語」。自分が心の底から楽しみながら、会場を笑いの渦に巻き込んでいく。高座の第一声は「楽しくなければ落語じゃない!」。月1回、稽古をつける女流落語家・露の都師匠は「取り組む姿勢が素晴らしく、私の方が教えられることが多い。自慢の生徒です」と期待を寄せる。
「以前は人の後ろに隠れるような性格だったけど、今は人前に出ることが大好き」と白い歯を見せる。大会を通じ、全国に友人ができたことも財産で、来年1月に同学年の仲間が集まる落語会「小5男子会」を奈良で開く予定という。
宮崎の大会以降も快進撃は続く。8月24日、大阪くらしの今昔館で開かれた「子ども落語大会」で25人の出演者中、第1位を獲得。弟のあさひさんは第3位となり、入賞記念として兄弟揃って10月5日㊐、天満天神繁昌亭に出演することが決まった。「宮崎の時よりも、もっとお客さんを笑わせたい」(滉正さん)、「お兄ちゃんよりもウケたい」(あさひさん)。最も身近なライバルの二人は、憧れの大舞台を前に連日練習に励んでいる。
(ニュース和歌山/2025年9月20日更新)
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