仏新首相に就任したルコルニュ国防相。首相公邸での交代式(写真:代表撮影/Abaca/アフロ)
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
9月10日、フランス全土で反緊縮を訴えるデモが行われた。前日に任命されたセバスティアン・ルコルニュ首相は、就任早々、有権者による手荒い歓迎を受けたことになる。首都パリでは暴徒化した一部の市民が放火するなど、治安が悪化する事態となった。フランスの主要労組は9月18日にも大規模なデモを行うことを呼びかけている。
有権者の不満は複合的だ。それはエマニュエル・マクロン大統領が進めようとする緊縮財政に対する不満もさることながら、マクロン大統領その人に対する不満でもある。またフランスが属するとともに、フランスに緊縮財政を要請する欧州連合(EU)に対する不満でもある。そもそも、フランス国民はどのリーダーにも、常に不満を募らせる。
フランスの政治は、この2年間で首相が4人も変わる異例の事態となっている。そのうち前々任のミシェル・バルニエ氏と前任のフランソワ・バイル氏は、それぞれ緊縮財政を進めようとしたが、議会による反発を受けて職を辞している。そもそもマクロン大統領も、行財政改革と労働市場改革を公約に掲げて2017年に当選した経緯がある。
フランスは社会主義国家と揶揄されるほどの高福祉国家だ。国際競争力を引き上げるためには、行財政改革と労働市場改革を通じて、経済の自由化を進める必要がある。一方、国民にとって優先度が高いのは、近年の高インフレで失われた購買力の回復だ。政権は減税などで国民の生活を支援すべきなのに、真逆の緊縮財政をするなどもってのほかだと不満を募らせる。
ここを巧みに突いてくるのが、右派の国民連合(RN)なり、左派の不服従のフランス(FI)だ。RNやFIの立場からすれば、とにかく議席を積み増し、国政での影響力を強めることが優先される。ゆえに、RNやFIは、緊縮財政に反対して政権を退陣に追い込んできた。無責任なこと極まりないが、政治とはそういうものだという現実もある。
このように政治が袋小路に陥っているフランスに対して、金融市場は当然ながら厳しい評価を与えている。
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