米国の現代自動車とLGエナジー・ソリューションの合弁電池工場が家宅捜索を受け、数百人の韓国人が拘束された事件は、韓国社会に衝撃を与えた。任期開始から間もない李在明大統領は、早くも外交的な試練に立たされた。

  トランプ米大統領への巧みな対応で国内外で評価を得ていた李大統領だったが、同工場の不法移民摘発は寝耳に水だった。事態を収拾しようと速やかに趙顕外相を派遣した李大統領は9日、拘束された約300人は近く帰国すると発言。この帰国に向け、韓国はチャーター便の手配を進めている。

  ただ、趙外相に課された使命は単なる緊急対応にとどまらない。今回の事件は、韓国が世界有数の好意的な関税合意を米国から引き出すに至った巨額の投資計画と、綿密に調整された外交へと注目を集めた。

  韓国は7月に成立した合意の一環として、韓国は3500億ドル(約51兆5000億円)規模の投資パッケージを約束した。だが、製造拠点の立ち上げや運営で韓国人労働者や韓国の下請け企業に頼る企業が多く、今回の事件で投資計画の実現は突如危うくなった。

Immigration Raid Hyundai Plant

米ジョージア州の現代自動車合弁工場で拘束された労働者(4日)

Source: U.S. Immigration and Customs Enforcement

  「今回の事件は、政府が実際にできることの限界を露呈した」と、韓国・崇実大学のキム・テヒョン政治科学教授は指摘。「トランプ氏の予測不可能さや気まぐれで行動する傾向は非常に厄介だが、これは無視できない現実だ。政府は深く恥じ入っているに違いない」と述べた。

  韓国はトランプ氏が掲げる再工業化と移民抑制という2つの主要政策の板挟みに遭っている。この中核的な問題について、通常の戦術ではトランプ氏の支持層に効果を発揮しにくい。米ジョージア州の現代自動車合弁工場の家宅捜索について政権の主な発信者が国境管理・移民送還を統括するトム・ホーマン氏だったという事実は、今回の事件でホワイトハウスがどのような形で注意を引こうとしたかが表れている。

  この捜索で米韓の貿易合意が破棄されたり、トランプ氏が関税引き上げに動いたりする兆しはないものの、企業が米国への投資に一段と消極的になり、米国に製造業を呼び込もうとするトランプ氏の取り組みは損なわれる恐れがある。企業にとって合法的かつ柔軟に労働者を米国で就労させることができるビザの取得は、容易ではない。

「恒久的なダメージ」

  韓国では、自国民を米移民・税関捜査局(ICE)捜査員が手錠や足かせをはめ、連行する映像に人々はくぎ付けとなった。市民の間に広がる屈辱感は、米韓の緊密な軍事・経済同盟を突き崩す恐れをはらむ。トランプ氏と信頼関係を築き、防衛面のコミットメントを引き出そうと狙っていた李大統領にとって、予期せぬ障害が発生した格好だ。

  この映像は「米国の信頼性に恒久的なダメージを残す」と、アジア・ソサエティの上級研究者、ジョン・デルーリー氏は述べ、「韓国人をこのように扱う政府を、危機時に『鉄壁の』同盟国として信頼できるはずがない」と続けた。

  「これで同盟関係の終わりとはならないが、『共に歩もう』というスローガンとは相容れないことは確かだ」とも指摘した。

  李氏はトランプ政権との対応で柔軟性を発揮し、15%の関税率を確保するなど対米関係で良好な滑り出しを見せていた。

  トランプ氏は今回の家宅捜索について重大視しない姿勢を示している。米国に投資する企業は米国の移民法を尊重する必要があると主張しつつ、韓国との関係は「極めて良好だ」と語った。

投資は困難

  摘発された工場を運営する韓国2社は、ビザの規則に違反したとの米側の主張に直接は対応していない。この捜索後、現代自動車の広報担当者は「工場労働者の安全と福利を優先している」と説明。LGエナジーは事態を検証しているところで、従業員やパートナーの安全と早期釈放の確保に取り組むと表明した。

  米韓首脳はホワイトハウスで会談した際、両国の協力に楽観を示し、トランプ氏は李氏を称賛した。韓国は自国の強みを生かして他分野での優位を得ようと、米国の造船業を支援するプロジェクトを提案したが、その計画も突如として雲行きが怪しくなった。

  韓国大統領府の金容範政策室長は9日のフォーラムで、「問題が対応されなければ、このような投資を進めることはできない」と述べた。

原題:Shackled Workers Threaten to Unravel Korea’s Wins With Trump(抜粋)

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