石破政権が崩壊した今、今後の交渉での継続性も気がかり(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

「bad news is bad news」と強まる悲観論

 石破首相による急転直下の辞任表明を受けて、政局流動化と拡張財政路線への懸念が高まる中、9月8日のアジア時間の為替市場では円売り優勢の動きが続いている。

 日本の政局に絡めた議論は、総裁選を含めた関連情報が出揃った上で改めてすることにしたい。

 日本政局が騒がしくなる以前の9月5日には、日米関税合意にまつわる大統領令の発令、対米投資に関する覚書の締結、そして8月の米雇用統計の大崩れなど多くの材料が重なった。雇用統計は悪化に構えていた大方の予想を超えるさらに悪い内容であり、株価も素直に下がっている。これは非常に興味深い動きだ。

 というのも、これまでは「bad news is good news」の解釈の下、悪い経済指標が出ても利下げ期待から株価が押し上げられていたが、事態の収拾はそれだけでは済まないとの悲観も強く、「bad news is bad news」の解釈が浸透している。

 もっとも、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で▲25bp利下げが100%織り込み済みになっただけでもあり、ドル/円相場が145~150円というレンジを下抜けているわけではない。日本経済にとってはその事実の方がよほど重いと言えるだろう。

結局、米国の主張に近かった対米投資合意

 それよりも日本人として気にしたいのは対米投資に関する覚書の件である(厳密には覚書は未公表ゆえ、主要報道を元にした内容である)。

 米国時間9月4日(米国時間)、赤沢亮正経済財政・再生相とラトニック商務長官は、7月に日米が合意した5500億ドルの対米投資についての覚書に署名した。対米投資合意にまつわる懸念点は先週のコラムでも整理したばかりだが、現在入手可能な情報を踏まえる限り、基本的には日本よりも米国が主張してきた内容に近そうである。

 詳しい論点と日本への懸念点を整理したものが次ページに載せた図表①だ。

 これらを総括すると「投資対象は米国が決定し、利益も米国に帰属し、資金を出し渋ったら関税を引き上げる」という半ば恐喝のような建付けが貫かれていることがよく分かる。以下、主な懸念点を整理しておきたいと思う。

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