東京ステーションギャラリー(東京駅直結)で「カルン・タカール・コレクション インド更紗 世界をめぐる物語」が9月13日から開催されます。本展は、世界屈指のコレクター、カルン・タカール氏のコレクションを日本で初めて紹介。ぜひ、この機会にインド更紗の奥深い魅力を堪能してみてはいかがでしょうか。
《白地蓮華象文様天蓋布》(部分)18世紀 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
カルン・タカール・コレクション
インド更紗 世界をめぐる物語
会場:東京ステーションギャラリー(JR東京駅 丸の内北口 改札前)
[〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1]
会期:2025年9月13日(土)~11月9日(日)
休館日:月曜日(ただし9/15、10/13、11/3は開館)、9/16(火)、10/14(火)
開館時間:10:00~18:00(金曜日~20:00)
※入館は閉館30分前まで
入館料:一般1,500円、高大生1,300円、中学生以下無料
※障がい者手帳等持参の方は200円引き(介添者1名は無料)
※オンラインチケットは https://www.e-tix.jp/ejrcf_gallery/ で購入可能、または美術館1階入口でも当日券を販売
問い合わせ:TEL:03-3212-2485
詳しくは美術館公式サイトへ。
展覧会概要
インドで生まれた更紗さらさはその誕生から数千年の歴史の中で、衣服や宗教儀式、室内装飾などさまざまな用途に使われてきました。天然素材の茜あかねと藍あいを巧みに用いて、染織の難しい木綿布を色鮮やかに染め上げて作られた更紗は、のびやかで濃密な文様が大きな特徴です。
また、染色の驚異的な堅牢性も、世界中の人々を驚かせました。主要な交易品として、おそくとも1世紀には東南アジアやアフリカへと渡り、17世紀にはヨーロッパ各国で相次いだ東インド会社の設立に伴い世界中へと輸出されます。貿易を通して他国の要望に応じたデザインを自在に展開しつつも、力強いインドの美意識を内包するインド更紗は、装飾美術から服飾まで世界中のあらゆる芸術に多大な影響を与えました。
本展ではインド国内向けに作られた最長約8メートルの完全な形で残る更紗の優品から、アジアとヨーロッパとの交易で生み出されたデザインを伝える掛布や服飾品、そして国内のコレクションも交えた日本での展開を伝える貴重な作品を紹介します。
《白地人物文様更紗儀礼用布》(部分)1450-1650年頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
コレクターのカルン・タカール氏について
1960年生まれのカルン・タカール(Karun Thakar)氏は、幼少期にインドのデリーで母親が経営していた仕立屋を手伝いながら、さまざまな布から精緻な衣装が作られるのを身近に見て育ちました。
1974年に家族で英国へ移住した後も布や工芸への興味は尽きることなく、1982年からアジアとアフリカの民芸品や染織品の収集を始めます。2021年にはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館と協働で、アジア・アフリカのテキスタイルと服飾の研究を助成するカルン・タカール基金を設立しました。
おもな出品作品の紹介
生命讃歌の樹
《白地立木形花樹文様更紗掛布(パランポア)》1740-50年頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
中央に立木の模様が描かれたベッドカバーや室内装飾用の布「パランポア」は、インド全土で何百年ものあいだ作られてきましたが、これはヨーロッパ人の好みにあわせた白地のデザインです。パランポアはヒンディー語の「パラン・ポッシュ」、つまり「ベッドカバー」に由来します。ごつごつした岩山に力強く根を張り、大輪の花を咲かせた枝はねじれ、躍動感に満ちています。インドの宮殿やテントを装飾してきた立木モチーフの更紗は、海を越えてヨーロッパの人々の暮らしを彩る装飾品として人気を博しました。
インド更紗を纏う
《更紗裂継上衣》19世紀 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
18世紀から19世紀頃のインド更紗の小さな裂(きれ)をつなぎ合わせてインドネシアで作られた上衣。絹の裏地に金糸の緯紋織(ぬきもんおり)で縁取られた豪華な作りで、異なる時代の更紗が丁寧に再利用されており、インド更紗がいかに珍重されていたかを伝えています。
花を摘む人
《白地人物草花文様更紗儀礼用布》17世紀頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
描かれた人物は、額の線と首にかけたルドラークシャ(菩提樹の実)の数珠によって、ヒンドゥー教のシヴァ派の信者であることがわかります。生い茂る植物に囲まれて立ち、祈りの儀式プージャーで使う花を摘んでいるようです。その優美な姿勢と指先は、特に繊細に描かれています。
チューリップと虫
《白地チューリップ虫文様更紗裂》1700-30年頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
オランダ向けに生産されたと考えられる、斜めに配されたチューリップと虫だけの印象的なデザイン。ここに描写された赤と紫の2色のチューリップは、17世紀前半にヨーロッパで人気を博した近代的な栽培種を表しています。更紗の生産者たちがさまざまな国の需要にあわせてデザインを研究していたことがうかがえます。
インド版、聖母子像
《白地聖母子文様儀礼用布》18世紀 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
インド更紗の名産地のひとつコロマンデル海岸で特別な依頼を受けて作られ、インドやスリランカのカトリック教会で祭壇の装飾に使われたものと考えられています。描かれているのは聖書を題材にしたモチーフの数々。左手に幼子キリストを抱え、右手には「聖母教会(カトリック教会)」の象徴である帆船を乗せた12の星を冠した聖母が三日月の上に立ち、悪を象徴する蛇を押しつぶしています。そのデザインにはインドの職人たちにしか作り出すことのできない独自の世界観が表れています。
子ども用の帽子にも
《白地花文様更紗女児用帽子》1750年頃 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
大航海時代が幕をあけ、ポルトガルやオランダの商人たちによってインド更紗がヨーロッパにもたらされます。それまでヨーロッパの染織品は色数も乏しく、素材は麻や絹地が中心でしたが、色鮮やかで伸びやかな模様に彩られた上質な木綿布を初めて見た時の驚きは、いかばかりだったでしょうか。やがて自国の産業を守るために禁令が出るほど爆発的な人気となりました。この帽子は、貴重なインド更紗をあますところなく使い切るため、小さな端切れをつなぎ合わせて作られました。
インドネシアで人気
《白地太陽文様更紗儀礼用布(マタハリ)》18世紀または19世紀 Karun Thakar Collection, London. Photo by Desmond Brambley
「マタハリ」とはマレー語やインドネシア語で「目マタ」、「日ハリ」を指し、「太陽」を意味します。この布のように中央に「太陽」が描写された布は、インドネシアのジャワ島やスマトラ島南部で高い人気がありました。これは珍しくスラウェシ島で発見されたものです。
にぎやかな構図
《白地人物城郭文様更紗裂》18世紀、南東インド海岸部(スリランカで発見と伝わる)
上段中央に座る占い師の手元に並ぶ伏せた器からは蛇や鳥、サソリや果物が表れ、右手は印を結んでいます。左右には太鼓を持った人物、そして後方にはオランダ国旗を掲げた砦。下段は宮廷の様子なのか、たくさんの宝石を身につけた人物が従者になにか指示しています。右端の馬の上方にはトランペットのような楽器が伸び、にぎやかな音楽が聴こえてきそうです。
茜や藍をはじめとする天然染料によって、さまざまなモチーフが緻密に描かれたインド更紗。華やかさのなかに、どこか神秘的でエキゾチックな風合いが漂います。本展では、インド出身の著名なコレクター、カルン・タカール氏が長年にわたって収集してきた珠玉のコレクションが日本初公開となります。現代のプリントには見られない、手仕事ならではのかすれやムラ、色のにじみなども見どころのひとつかもしれません。西洋や日本とは一味違う独特の美意識が息づくインド更紗の世界を、じっくりと堪能してみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)
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