インタビュー
2025.09.04
2025年7月に阿久根市大川地区にて新たにオープンした「的場邸 matobatei」(以下:的場邸)。昨年6月にインタビュー取材した「お宿ととと」の大戸佳美さんが運営し、子ども連れや団体など、気兼ねなく阿久根滞在を楽しんでもらえるような宿づくりをしています。大戸さんのご両親(寺地兼二さん・栄子さん)にも同席してもらい、オープンに至った背景について聞きました。
「お宿ととと」のインタビュー記事はこちら。
的場邸 入り口看板
歴史が詰まった場所を、一軒貸切の宿へ
大川地区は牛ノ浜・大川・尻無の3つの集落で構成されており、ボンタン農家や水産業を主産業として栄えてきました。地区内にある霧島神社では毎年10月末に盛大な祭りが開催され、多くの人で賑わったといいます。
佳美さんは大川出身で、お母さま(栄子さん)の実家が的場家です。初代から6代目まで霧島神社の宮守を務め、地域にとっても身近な家系だったそうです。
「昔は大晦日の夜には地域の役員さんたちとお神酒などのふるまいの準備をして、参拝客を出迎えていました。また、10月末に行われる祭りの際には世代関係なく集まって、神社で歌ったり踊ったりしていたのを覚えています。」(寺地さん夫妻)
大戸佳美さん(写真左) 寺地栄子さん(写真中央) 寺地兼二さん(写真右)
30年以上前の的場邸一角の航空写真
そんな的場家では、代々この地で的場家が住んでいた家(過去に建て直し等あり)があり、的場邸と呼ばれています。佳美さんの祖父母が亡くなってからは親族の集まる場所として使用し、寺地さん夫妻が管理を続けてきました。その中で県外から佳美さんが家族で大川にUターンし、「お宿ととと」(以下:ととと)を昨年オープン。そして、そこから1年が経過した今年の春に新たな動きが始まったのです。
「阿久根で仕事のために2週間滞在を希望しているご夫婦が宿を探していると友人から言われたのがきっかけでした。リモートワークをしながらの滞在とのことだったので、気分転換もしつつ、暮らしを体感できるような宿があればと、ふと思ったんです。」(佳美さん)
そこで頭を過ぎったのが空き家となっていた的場邸。
・10年前にリフォームをしていること
・キッチンや冷蔵庫が完備されており、10人程でも過ごせる広さであること
・東シナ海を見渡せる高台に位置し、近所とも程よい距離で音に気を遣わなくてもいい環境であること
それらの条件に加え、“ととと”を運営している経験から、新たに一軒貸切の宿を始める決意をすることになります。
的場邸内観 和室が宿泊部屋だが、写真中央の椅子やソファを移動させることで、10人程度の宿泊もできるという。
ロングテーブルが2つ設置されており、懇親会や会合でも使用しやすい。また、レンタルスペースでは会合やワークショップでも使用できるのだとか。
的場邸ベランダから見える大川地区と東シナ海
阿久根の日常を特別な感覚で過ごせる場所に
そして、2025年7月に的場邸がオープン。宿泊だけでなく、レンタルスペース機能も備えたカタチでスタートしました。レンタルスペースでは地域や小学校保護者の会合として利用が早速あったのだとか。今後は阿久根で開業を目指す人向けのチャレンジショップや、つくり手によるワークショップ、子連れで楽しめるイベントなどの企画も考えているそう。
「宿の名前を的場邸にしたのは昔から地域の人に馴染みがある名前だったというのと、覚えやすいというシンプルな理由からです。さらにいうと、私自身結婚をして苗字が変わったこともあり、的場の名前を継げなくても、今ある建物(的場邸)自体もですし、紡いできた思い出や風景だけでも受け継ぐことができたらという想いを込めました。」(佳美さん)
チェックインの風景 取材時は5人家族が宿泊していた
この日はピザづくり体験 その前に宿敷地内にある畑に野菜の収穫体験から
ピザ生地を捏ね、収穫した野菜や好きな材料を乗せながら体験を親子で楽しんでいた
この日は寺地さんが駆けつけ、ピザ窯で焼く作業のサポートを
焼き上がったピザの一つ 宿泊者は親子で焼き立てのピザを堪能した
そのまま夜はBBQ BBQセットも食材も宿側で準備(お酒も含め持ち込みも可)
オプションではピザづくりやBBQ、川遊び、まち歩き、朝食などがあり、家族や団体で楽しめるようなサービスを心がけているのだとか。宿の敷地内には畑やピザ窯があり、食材込みのBBQセット(事前予約制で)も準備されるため、移動負担が少なく楽しむことができます。朝食は食材が準備されており、セルフで調理をし、ロングテーブルで大川の景色を眺めながらゆっくりとした朝を過ごせるのも的場邸ならではの醍醐味です。また、近くの霧島神社や集落内を早起きして散策するのもオススメだそう。
「大川は阿久根の中心部からは少し離れていますが、田舎暮らしが存分に楽しめる場所です。ご家族で一泊もですし、個人で友人同士で長期滞在することで、阿久根の日常を特別な感覚で過ごせると思っています。体験でなく、まちあるきツアーもできないか模索しているところです。」(佳美さん)
味噌は阿久根の「田舎味噌 磯畑〜ISOMISO〜」を使用 味噌玉をお湯に溶かす過程も楽しめる
宿泊者がつくった朝食 魚はキビナゴを焼いたもの 東シナ海ではキビナゴが多く漁れるという(魚は大川の川畑水産より仕入れている)。また、卵は丹波のenfarm(佳美さんの友人)が丹精込めて育てている平飼いの卵を提供している。
ロングテーブルで家族で朝食を楽しむ
取材時に宿泊していたのは阿久根市在住の5人家族(夫婦、子ども3人)。普段暮らしている阿久根に宿泊するのは初めて経験だったと語ります。その上で、的場邸の宿泊を通して感じたことを聞きました。
「阿久根で生活していると港から海を見ることはありますが、少し離れた高台から海をボーッと眺めてゆっくり過ごす機会は今までありませんでした。夜になると近くの家や大川駅から出ている明かりが点々としている風景も相伴って綺麗に感じました。」(宿泊者・夫)
「阿久根市民も他のエリアの人も、阿久根=海、というイメージを抱いていると思います。私たちもそうでした。でも、そのイメージにはない大川の隠れスポットともいえる小さな川で、さらにいうと、安全で涼しい場所で川遊びができたので大人も子どもも安心して楽しむことができました。的場邸を起点に、阿久根の新しい一面を知れて地元での過ごし方の選択肢が広がりました。」(宿泊者・妻)
今回の宿泊を受けて「暮らしを体感するだけでなく、帰省した際に的場邸を利用するのも一つの選択肢ではないか」という声もありました。
チェックアウトの後は友人家族も含め川遊びへ 大川の穴場スポット 大人も一緒に川を楽しんだ
川で捕まえた魚や虫を観察する子どもたち
親子で川遊びを楽しむ様子 最初は水を怖がっていたが、次第に慣れ、笑顔で泳いでいた
宿を通して、地域に新しい選択肢を
的場邸がオープンし、2ヶ月。大川という地域で宿を始めたからこその変化を感じていると力強く語ります。その理由について聞きました。
「大川は阿久根の中でも人口減少が著しい地域になります。若い人も少なくなり、寂しさを感じることもあります。でも、子連れの家族が宿泊できる宿を始めたからか“以前より子どもたちの声を耳にするようになったのが嬉しい”と地域の方がおっしゃってくださったんです。」(佳美さん)
夏休み期間中は、大学生が団体で宿泊し、的場邸を起点に阿久根を楽しむ姿を目にすることもあり、大川ならではの新しい可能性や選択肢を感じたのだとか。それを自分たちなりにカタチに落とし込み、地域の人たちにも喜ばれるような宿づくりを続けていきたい。手応えを語る佳美さんの表情から、そんな意気込みが感じられます。
最後に今後の展望について聞きました。
「地域にとっても、訪れる人にとっても、そして、私たち自身にとっても選択肢が増えることもとても素敵なことだなと思いました。それは宿泊もですが、友人同士で思いっきり夜通しおしゃべりしたり、移住のために暮らしを体感したり、別荘感覚でゆっくりしにきたり、さまざまです。」(佳美さん)
「“ととと”を始めてから空き家活用について考えるようになり、的場邸も空き家活用事例の一つです。地域の実情や所有者の想いによって、アプローチの仕方も異なってきます。でも、私たちの動きを通して“こんな使い方もあるんだよ”“使い方次第では新しい選択肢がどんどん生まれるんだよ”と一人でも多くの人に伝えられるきっかけにもなれたら嬉しいです。」(佳美さん)
屋号
的場邸 matobatei
URL
https://www.instagram.com/matobatei_okawa.akune/
住所
鹿児島県阿久根市大川8003
備考
●予約サイト
・予約フォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSezlC1fvWlwYclClYdz8CPCMn7bpDTH6StzV-xSCOVbnwRdpA/viewform
※airbnbやbookingcomでも予約可。
※公式インスタグラムDMからでも予約可。ピザづくりやBBQ、川遊びといったオプションについてもお気軽に問い合わせください。
※レンタルスペースについても公式インスタグラムDMよりお問い合わせください。1時間500円になりますが、間借りで飲食営業の場合はまずはお問い合わせください。
●ベビーグッズのレンタルもございます。お風呂チェア、子供用のイス、ベビーベッドベビーサークル、オムツ用ゴミ箱、おもちゃ等ご希望の方は事前にお知らせください。お子さまで寝具を使用しない場合(添い寝)は追加料金なしです。
●お試し移住住宅としてのご利用を希望される方はお早めにご相談ください。1週間単位で利用料をご提案させていただきます。また、移住後の生活についてもご相談にのれます。
●お宿ととと インタビュー記事
https://www.reallocal.jp/114089
●お宿ととと 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/oyadotototo/
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