銀行業界の主要気候変動対策グループ「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」を巡り、米国主導の脱退の動きが欧州連合(EU)にも波及するとの見方が出ている。

  事情に詳しい関係者によれば、米国との取引規模が大きい一部のEU大手行が離脱する可能性がある。石油に対して否定的な姿勢を示していると米国で非難されるリスクが、銀行側にとって主要な懸念事項になっている可能性があるという。非公開の情報として、関係者が匿名を条件に語った。

  EU勢がNZBAを離脱すれば、NZBAにとって大きな打撃となる。

  米国では、ドナルド・トランプ氏の大統領返り咲きで気候変動対策への政治的な攻撃が強まっている。NZBAを巡る取り組みに伴い、訴訟を提起されたり共和党から排除されたりするリスクに銀行はさらされている。

   一方、EUでは、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」への方針が法律に示されており、域内の銀行は世界で最も気候変動への対応に積極的な金融機関と見られていた。

  NZBAの広報担当者は、同グループは残るメンバーの支援に取り組むと話したが、EU勢の離脱の可能性についてはコメントを控えた。

他行とのつながり

  別の関係者が匿名で語ったところによれば、フランスのBNPパリバは、6月時点でNZBA継続加盟の意義について疑問を抱いていた。ただ同行は脱退で注目を集めるのを避けたい考えで、年末ごろまで正式な判断を先送りする案を6月時点で議論していたという。

  BNPパリバの広報担当者はコメントを控えた。

  ドイツ銀行の広報担当者は、「今の動向を注視し評価していく」とした上で、同行の持続可能性やネットゼロに関する目標は変更していないと説明した。

  スペインのサンタンデール銀行の広報担当者は、ネットゼロへの取り組みは継続していると答えたが、そこにNZBA加盟継続が含まれるかどうかについてはコメントを控えた。

  イタリアのウニクレディトの広報担当者は、先月の決算発表に関連して出したコメントの内容を繰り返し、同行はNZBAのメンバーであり、顧客の低炭素移行の取り組みを支援するためのネットゼロ移行計画があると説明した。

  ドイツのコメルツ銀行の広報担当、ベアテ・シュロッサー氏は電子メールで、市場の動きや規制動向、法域に注意し、「必要に応じて適切に対応できるよう努めている」と回答。同行の2050年のネットゼロ目標は維持するとしている。

  EUの銀行幹部らが過去にNZBAに残る理由として挙げていた一つが、他行とのつながりだった。しかし脱退が相次ぐ中でもはや利点ではなくなっている。

  英バークレイズは、今月初めにNZBAを脱退。一連の脱退によってNZBAは「われわれの移行を支援するメンバー数を有していない」と指摘した。これに先立ち、同じ英国のHSBCホールディングスも、脱退している。

Barclays Plc Ahead Of Results

バークレイズとHSBCのオフィス

Photographer: Jason Alden/Bloomberg

  バークレイズの離脱に続き、スイスのUBSグループもNZBAから脱退した。いずれも非EU圏の銀行だが、これに伴い、EU加盟国の銀行も脱退するのではないかとの観測が高まっていると、NZBA内部の議論に詳しい関係者は述べた。

枠組みの弱点

  金融機関でつくる脱炭素を目指す国際的な枠組みであるNZBAのような気候変動対策グループの意義を巡っては、今も議論がなされている。

  コロンビア大学サステナブル投資センターの責任者、リサ・サックス氏によれば、NZBAのような枠組みの弱点は、排出削減目標や投資先企業への脱炭素化の働きかけだけで金融業界が低炭素移行に重要な影響を及ぼせる、といった想定にある。

  金融機関の使命は、既存の市場の条件下で利益を最大化することだと同氏は説明。「市場の不備を是正したり、社会の移行を実現したりするのに適した組織ではない」と指摘した。

  NZBAのウェブサイトによれば、同グループには今も世界で125のメンバーが加盟しており、資産規模は計41兆ドル(約6040兆円)に上る。

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原題:Wall Street Sets Off Trans-Atlantic Exodus From Once-Feted Club (2)(抜粋)

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