韓国の李在明大統領。ベトナムとの「歴史問題」のタブーに踏み込む?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 李在明(イ・ジェミョン)大統領は、韓国のタブーを破りつつある。この一週間ほど、ベトナムとの間の「歴史問題」に対する姿勢が物議を醸している。

 去る6月19日、李大統領は閣議でベトナムとの歴史問題を取り上げ、当時の趙兌烈(チョ・テヨル)外交部長官に対して「ベトナムに対しては公に害を加えたことなどありませんと否認しているのか」「ベトナムの国民は(韓国に)謝罪するよう求めているのではないか」と尋ねたことが、ここにきてメディアに取り上げられているのだ。

 そして、ベトナム共産党トップのトー・ラム書記長は今月10日から4日間の日程で、国賓として韓国を訪問する予定もある。

 ベトナムとの関係をこれまで以上に発展させたい韓国だが、それを妨げるのが「歴史問題」である。現在のベトナムでは韓国の印象はよくなっているが、ベトナム戦争当時を覚えている人のなかには、韓国の印象は決して良いとは言えない。

 私も現地で日本人だというと友好的な態度を示してくれるが、「でも、韓国に住んでいるんですよ」というと、相手が目を丸くして固まってしまうことがある。「なんでそんな恐ろしいところに住んでいるんだ?」と思うのだそうだ。

 日韓の歴史問題では韓国は「被害者」だ。他方、ベトナムとの間では「加害者」の立場にある。

 ベトナム戦争により南ベトナム共和国への支援がアメリカから要請された。これに対して派遣された韓国軍が民間人への虐殺を繰り返した。そのときの生存者が、「自分の家族の命が奪われた」として、韓国政府を相手に損害賠償を求めて訴訟を起こしており、これまで一審と二審で韓国政府への賠償を命ずる判決が下されている。

 李大統領の発言はこれを念頭に置いたものだが、注目すべき点が二つある。

 一つは、日本の歴史問題との関わりだ。李大統領はその発言をする直前に「我が国は日本に対して「謝罪しろ」「補償しろ」と何度も繰り返し要求しているけれども」と前置きをしているのだ。これは朝鮮出身の元慰安婦や強制徴用労働者(徴用工)への賠償問題を指している。

 もう一つは、ベトナムでの虐殺について韓国で長年にわたりタブー視されてきたものへ一歩踏み込んだという点である。

 詳細は後述するが、そもそもこの問題は長年タブーとされ、初めて語られたのは25年ほど前だ。それから徐々に公に語られるようになってきたものの、今回のように、虐殺の被害者への賠償をほのめかす大統領の発言は、おそらく初めてなのではないだろうか。

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