関税交渉ではトランプ大統領に完敗したと言われるフォンデアライエン欧州委員長(提供:Daniel Torok/White House/ZUMA Press/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

米EU合意、域内は不満が支配

 7月の米雇用統計を受けた金融市場の動揺は完全に収まっていないが、雇用の増勢だけを捉えれば足許で復調している(+1.9万人→+1.4万人→+7.3万人)との見方も可能であり、悲観一色というわけではない。

 関税交渉を巡る不規則発言については警戒を要するものの、対中交渉を除けば、一応の軟着陸を見ており、少しずつ「普通の夏」に戻っていく望みもまだある。

◎令和版ブラックマンデー再来は回避も楽観視は禁物、ひどすぎる雇用統計に現れた関税の痛みとトランプ派議長の足音(JBpress)

 ところで、7月27日に大枠合意が発表された米国とEU(欧州連合)の関税交渉について、日本では報道が乏しいように思える。これは参院選と日米関税合意の直後であったため、関心が逸れていたという事情が大きそうだ。合意内容には、日米交渉とはまた違ったEU特有の苦しみも透けて見えるため、今回、簡単に整理しておきたい。

 既報の通り、フォンデアライエン欧州委員長は7月27日、米国がEU製品の大部分に対する関税率を一律15%にすることで合意したことを明らかにしている。

 この対象製品には事前に注目されていた自動車、半導体、医薬品も含まれる。30%まで引き上げられていた追加関税率が半減したことになり、報道直後は安堵感が広がった。

 もっとも、加盟国首脳からの評価はかなり厳しいものであった。

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