トランプ米大統領がスイスの輸入品に高関税を課すきっかけとなった貿易不均衡の背後には、金市場を支える小さな産業の存在がある。

  スイスは高品質と機密保持における長年の信頼から、世界最大の金精錬拠点となっている。南米やアフリカの鉱山から算出された金はロンドンやニューヨークの金融機関に向かい、絶えず数十億ドル規模がスイスを経由している。

  取引額全体に対するスイス精錬業者の占める割合はかなり小さいにもかかわらず、金取引はスイスの貿易収支に大きな影響を及ぼしている。

  IMDビジネススクールのサイモン・エべネット氏によると、金地金はスイス最大の輸出品だ。同氏は「金は特別なものだ。実際にはスイスで製造されているわけではなく、加工品という表現の方がふさわしいだろう」と言う。

  トランプ政権が貿易赤字の是正に焦点を当てる中、こうした金関連産業の影響力はかつてないほど重要になっている。スイス税関のデータによると、金地金の輸出額は第1四半期に360億ドル(約5兆3000億円)超と過去最高を記録し、スイスの対米貿易黒字の3分の2余りを占めた。

  米大統領がスイスからの全輸入品に39%の関税を課す決定を下したことは、スイス国内に衝撃をもたらした。スイス政府はそれまで、高率課税は回避できると確信していた。米通商代表部(USTR)のグリア代表はこの関税について、米国との貿易のバランスと、貿易赤字是正への米国の意志を反映したものだと述べた。

  米国への金輸入の急増は、金が米国の広範な輸入関税の対象となる可能性があるため、大きな利益が見込める欧米間の裁定取引を狙った動きでもあった。

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  欧州のトレーダーは、高値で売却するためにニューヨーク市場への輸送を希望していたが、まずは世界最大の金取引市場であるロンドンの400オンスの標準地金から、ニューヨーク商品取引所(COMEX)が求める1キログラムまたは100オンスの地金に再鋳造する必要があった。この行程を担うスイスの金精製業者は裁定取引において重要な役割を果たしていた。

  第2四半期には、金地金がトランプ関税の適用除外となったことで流れが反転し、米国の金価格はロンドンのスポット価格と再び一致した。スイスではこの間に10億ドルを超える金の純流入が記録された。この免除により、スイスの今後の金輸出は新たに導入された39%の関税の対象外となる見通しだ。

  金の流通には巨額の資金が伴うものの、精錬業そのものは比較的小さな産業だ。スイスには投資用の金地金を生産する企業はわずか5社で、そのほとんどは数百人程度の従業員を雇用している。今年、精錬所を通過した金の価格はオンス当たり約3500ドルまで急騰したが、精錬業者は金塊を再鋳造する際、そのうちわずか数ドルしか利益を得ていない。

  スイス国立銀行(中央銀行)は今年発表したリポートで、米国への過剰な金輸出を両国の貿易関係を分析する上で除外すべきだと主張している。

 

原題:Swiss Gold Trading Takes Spotlight in Trade Talks With Trump(抜粋)

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