クルマの個性を決める「グリル」

おそらく米国人が始めたのだと思う。筆者(英国人)が子供の頃、デトロイトの自動車メーカーは、歴史上最も大型でクロームを多用した派手なフロントグリルに夢中になっていた。筆者は写真でしか見たことがなかったが、そういうクルマが大好きだった。

当時、ほとんどすべてのフルサイズ車(米国車だけでなく欧州車も含む)で、精巧に作られたフロントグリルと、トランクリッドから胸の高さまで突き出たテールフィンがセットで採用されていた。しかし、筆者はテールフィンにはあまり関心がなかった。なぜなら、グリルほど明確な目的がなかったからだ。

フロントグリルは、ブランドイメージや時代性を反映したものとなっている。フロントグリルは、ブランドイメージや時代性を反映したものとなっている。

特徴的なフロントデザインは、大きく2つの意味があると考えている。それは今でも変わらない。まず、そのクルマのメーカーを表現している。シボレーとフォードはそれぞれ同じような金属部品を使っていても、まったく別のクルマに見えた。

第2に、そのクルマが生まれた時代の社会の雰囲気を示している。クロームの輝きが主流だった時代、楽観主義と繁栄への期待感に満ちていた。戦争の終結、緊縮政策からの緩やかな解放、ベビーブームの始まり、人々の野心の高まり、そして経済性や燃費への関心の薄さ。

現在は全く異なる。グリルが時代と共に変化し、時代の指針としての役割を維持していることに、筆者は感銘を受けている。例えば、初期のキャデラック・エルドラドの喜びに満ちた華やかさと、2020年のフォルクスワーゲンID.3の効率性重視の抑制されたデザインを比較してみてほしい。

このような劇的な変化を吸収しながら、グリルがメーカーの歴史的なつながりを維持し続けているのは驚くべきことだ。

現在、筆者はジープ・ラングラーのセブンスロットグリルに特別な喜びを感じている。このデザインは、戦時中の1940年代のジープとのつながりを保とうと、数百人のデザイナーによって長年再解釈されてきたものだ。最初期のラジエーター周りは、単に数本の通気口が切り取られただけのシンプルな構造だった。

また、グリルデザインの重要性がますます大きくなっていることも興味深い。今日のEVは、厳密にはグリルを必要としないが、自動車メーカーは依然としてグリルを不可欠なものと考えている。

ジャガーの新しいコンセプトカー『タイプ00』は、本来は不要であるにもかかわらず、長いノーズと緻密にデザインされたフロントファサードを採用している。

世界中で販売車種が増え続ける中、今後この領域がどのように発展していくのか楽しみだ。

美しいサーフェス、調和のとれたシェイプ、理想的なプロポーション、完璧なスタンスはどれも素晴らしい。しかし、2040年のクルマに個性的なフロントデザインを与えるとなると、まったく新しい課題に直面するだろう。

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