ベルリンの首相官邸で行われた安全保障会議後に記者会見するドイツのフリードリッヒ・メルツ首相(7月28日、写真:AP/アフロ)

2029年までに「対露戦争への再軍備」を完整

 ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は7月17日、BBCのラジオ番組「トゥデイ」に出演し、欧州が自らの防衛と安全保障に対して十分な資金を拠出していないと主張する米国、すなわちドナルド・トランプ大統領の非難を受け入れると発言した。

 メルツ首相は、「我々は自分たちがもっと努力しなくてはならないと理解しているし、かつてはただ乗りしてきた」と認めた。

 そして、「米国は我々にもっと行動するよう求めており、我々は実際にもっと行動している」と述べた。

 北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)では、ロシアのウクライナ侵攻を受け、同国が数年以内に西欧を攻撃できる態勢を整える可能性があるとの認識が、日々高まっている。

 このロシアによる脅威や、トランプ大統領が欧州安全保障へのコミットメントを疑問視していること、中東欧諸国での親露的民族主義の台頭などを踏まえ、ドイツは、「E3(英独仏)」と呼ばれる欧州主要国の一員として、2029年までに「欧州最強の通常軍」の構築を目指し対露戦争への再軍備を本格化させている。

 その主要施策として、対内的には国防費を「債務ブレーキ」の対象から除外したことや、18歳男性の徴兵検査義務の復活、防空シェルターの復活、対外的には英国との防衛協力を強化する「友好条約」締結や欧州兵器開発の牽引を通じた地域リーダーとしての責任と主導性の発揮などが挙げられ、それらに鋭意取り組み始めている。

国防費を「債務ブレーキ」対象から除外

 ドイツでは、2009年の欧州の信用不安を契機に、政府の債務を国内総生産(GDP)の0.35%未満に抑える「債務ブレーキ」と呼ばれる厳格な財政規律ルールが、当時のアンゲラ・メルケル政権によって採用された。

 しかし、ロシアによるウクライナ侵攻で欧州の安全保障環境が劇的に変化する中、「債務ブレーキ」を維持したままでは、国防費を大幅に増額することは難しい状況となっていた。

 そこで、ドイツの連邦議会は今年3月、国防費などを増額できるよう財政規律を緩和するため、憲法にあたる基本法の改正法案を賛成多数で可決した。

 国防費は「債務ブレーキ」の対象から除外され、ドイツの再軍備と戦略的独立を確保する途を開いた。

 ドイツは、2029年までにGDP比3.5%の国防費(兵器調達など「中核的な国防費」)とするNATO目標(インフラ投資などの関連投資1.5%を合わせると合計GDP比5%)を達成すると表明した。

 ドイツにとって、基本法の改正は「第2次世界大戦後から続く軍備への抑制からの脱却になる」(英経済紙フィナンシャル・タイムズ)と見られている。

 英仏よりも低い水準にあった国防費の増加につながる重要な改革であり、今後、安全保障・国防の強化に向けた動きが加速するのは間違いない。

 欧州最大の経済大国であるドイツは、すでに米国に次ぐウクライナ支援の中心国である。

 他方、EUは安定成長協定(SGP)で、加盟国に財政赤字をGDP比3%以内、債務を同60%以下に抑えるよう求めている。

 これに対し、ドイツはEU欧州委員会に向けて、今後数年間の国防費増額のため、EUの財政ルールの免責も要請している。

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