吾峠呼世晴氏原作の漫画「鬼滅の刃」をアニメ化した劇場版「無限城編 第一章 猗窩座再来」が、7月18日より公開となった。「無限城編」は前作のTVシリーズ「柱稽古編」の最終話直後、鬼殺隊が鬼舞辻無惨との決戦へと突入する最終局面を三部作で描く。

 この記事では、最速上映を鑑賞してきた筆者の感想を軸に、多くのファンが注目する「猗窩座再来」のレビューをお届けする。本編のネタバレを多分に含むため、ご注意を。

【決戦の火蓋を切る――】
劇場版「鬼滅の刃」無限城編
第一章 猗窩座再来

本日より全国劇場にて上映開始です。

ぜひ劇場にてご覧ください。https://t.co/2KjmHDSY3T#鬼滅の刃#無限城編pic.twitter.com/uD52dt7vBd

— 鬼滅の刃公式 (@kimetsu_off)July 17, 2025無限城のスケール感や剣技のディテール、原作の行間にあったであろうやりとりなどアニメならではの“可視化”が秀逸

 始めに本編の進行度についてだが、猗窩座との決着がつくところまでが描かれていた。物語の展開についてもほぼ原作通りで、つまりは胡蝶しのぶvs童磨、我妻善逸vs獪岳の結末にも触れられる。

 映画が始まるとまず、“無限城”という名の通り、スクリーン上にどこまでも広がる城のスケールの大きさに圧倒される。城内の様子はこれまでのアニメシリーズでも登場していたが、それらを一層上回るものへとパワーアップしていた。原作を読んでいた際には、足場を消すことで隊士たちを撹乱していた印象の無限城だが、本作では足場となっている踊り場が猛スピードで横方向へ移動(格闘ゲームのステージ変換のように)したりと、「そういうのもあるのか」的な驚きもあった。

「無限城編」の名に違わず、全編を通して無限城が存在感を放っている

 そんな無限城に放たれた炭治郎と柱たちだが、悲鳴嶼行冥と時透無一郎、甘露寺蜜璃と伊黒小芭内といったそれぞれの取り合わせが死闘へと赴くよりも前、無限城をどのように移動していたのかという行間を肉付けするようなオリジナルパートも折々で挿入される。しのぶvs童磨戦や善逸vs獪岳では、少々ではあるがオリジナルの戦闘描写があったし、しのぶの過去回想では童磨に敗れた実姉・先代花柱である胡蝶カナエとのセリフも増えていた。

 善逸の過去回想然り、炭治郎たちが戦っていた際、その裏方として指揮を執っていた産屋敷輝利哉と隠(かくし)の描写や、冨岡義勇の同期である村田が水の呼吸を駆使して鬼の頸を切るシーンなどもあり、原作の行間に潜んでいたであろうやりとりが可視化されていたのは、ファンとしては嬉しいポイントだ。

 次に、本作のミソである戦闘シーンについて。童磨が操る氷の血鬼術はスクリーンに映えるだろうと思っていたが、そんな予想は軽々と超えてくるほどの仕上がりであったし、鬼殺隊でも随一の速さを誇るしのぶが繰り出す、蟲の呼吸の苛烈な剣技の応酬は見応え充分。

 その生い立ちからかやけにわざとらしく、芝居がかった風に喋る童磨だが、演じる宮野真守氏の腕前によってそれが不自然に聞こえない絶妙な塩梅になっていた。この怪演には流石の一言だ。対するしのぶを演じる早見沙織氏も、まさに命を削っているかのような熱の込もった演技を見せてくれる。ここは長々とウンチクを垂れるよりも、ぜひ劇場で体感してほしい。

過去回想における悲痛なやりとりや、かつてない強敵に苦戦するしのぶの演技に一気に惹き込まれる

 続く善逸vs獪岳。ここは原作でも比較的早めに決着がついたため、本作でもやや短めの戦闘だが、見た目にも派手な雷の呼吸の使い手同士ということで非常に見応えがある。映像化されたことで獪岳が放つ雷の呼吸の技のディテールが鮮明になり、真正面から舌戦を繰り広げる2人の剣幕に観客のテンションも上がっていくのを感じた(直前に戦っていた童磨がのらりくらりと話すタイプだからこその緩急も効いていたように思う)。特に勝負の決め手となる、善逸が編み出した雷の呼吸 漆の型・火雷神は渾身の演出と劇伴で、本作の瞬間最大風速といえる盛り上がりだ。

 獪岳との決着がついた後、三途の川と思わしき場所で善逸と師である育手(そだて)・桑島慈悟郎が一瞬の会話を交わすシーンがある。極めて個人的な感想かつ気のせいかもしれないのだが、心なしかその時の善逸の声が少し枯れているように聞こえたのも、下野紘氏がレコーディングに全身全霊をかけた証のように感じられた。

真正面から全力の火花を散らす善逸と獪岳のやりとりは、いやがうえにも見る者のボルテージを上げていく

 そして、炭治郎&義勇vs猗窩座だ。床だか壁だかも定かではない無限城の障壁をブチ抜いて、2人のもとへ真っ直ぐに向かってくる猗窩座。この登場シーンが映画館ならではの立体感のある音響とマッチして、やけに臨場感を伴っていたのが脳裏に焼き付いている。

無限城を縦横無尽の舞台として、猗窩座が破壊の連撃をしかけていく

 この出会い頭のやりとりで鍛え上げた実力を見せた炭治郎は、義勇をして「柱に届く」と評されるのだが、基本的に防戦一方な炭治郎に対し、義勇は猗窩座の攻撃をいなしつつ反撃に転じるなど、戦闘シーンが映像化されたことで2人の実力にまだ差があるということがわかりやすく描写されている。痣が発現してからの義勇は、ひとりでも猗窩座と互角と言って差し支えないほどの戦いぶりを見せる。

炭治郎の成長と同じくらい、義勇の強さが際立つクライマックス

 その傍ら、父との思い出を回想することで「透き通る世界」へと糸口を掴み、覚醒する炭治郎。原作では比較的さらっとした描写だったが、本作ではそこも肉付けされている。針の穴を通すような攻防の末の決着と、そこから描かれる猗窩座の過去……ここについてはあえて多くを語るまい。ぜひ劇場へと足を運び、ご自身の目と耳と心で、その行く末を確かめてほしい。

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