スプリンターにとって5日ぶりの出番となったツール・ド・フランス第8ステージで、ライバルチームのトレインを巧みに乗りこなしたジョナタン・ミラン(リドル・トレック)が圧巻のスプリント。初出場のツールで2019年以来、6年ぶりとなるイタリア人勝者に輝いた。
この日も大歓声を浴びるアラフィリップ photo:A.S.O.ヴィンゲゴーを応援するファン photo:CorVos

ポガチャルとスタート前に挨拶をするブルターニュ出身のエウェン・コステュー(フランス、アルケア・B&Bホテルズ) photo:A.S.O.
7月12日(土)第8ステージ
サン・メン・ル・グラン〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ(平坦)
距離:171.4km
獲得標高差:1,700m
天候:晴れ
気温:30度

第8ステージ サン・メン・ル・グラン〜ラヴァル・エスパス・マイエンヌ image:A.S.O.
ツール・ド・フランス第8ステージに、5日ぶりにスプリンターの出番がやってきた。その舞台はブルターニュを離れてマイエンヌ地方へ向かう平坦路。レース主催者が「コースの大部分は風を遮る地形」と太鼓判を押す、集団スプリント向きのレイアウトだ。

終盤には4級山岳が登場するものの、登坂距離0.9kmに平均勾配3.8%とスプリンターを退けるには不十分。最終ストレートは約1kmにわたる緩やか登り基調のため、純粋なスピードだけでなく、パワーの持続力とスプリントを開始するタイミングが勝負の鍵を握った。

アタックのない、穏やかな序盤となった photo:A.S.O.
この日は前日の終盤に落車で左手首を痛めたエディ・ダンバー(アイルランド、ジェイコ・アルウラー)が未出走のため、176名となった選手たちがアクチュアルスタートを切る。しかし飛び出す選手は現れず、集団はコース幅いっぱいに横に拡がり、まるでパレード走行のような穏やかな滑り出しとなった。そして残り85.9km地点に設定された中間スプリントを目指し、スプリンターチームであるアンテルマルシェ・ワンティが集団を牽引した。

レース前半は平均時速35km/h前後のサイクリングペースで進行。リドル・トレックは星条旗柄のアメリカ王者ジャージを着用するクイン・シモンズを集団前方へ送り出す一方、プロトンの後方ではマイヨジョーヌを着るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)がリラックスした様子を見せる。その隣で談笑するチームメイトのジョアン・アルメイダ(ポルトガル)は、前日の落車で肋骨を骨折したものの、不屈の闘志でレースを続けていた。

肋骨骨折が報道されたジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVosマイヨジョーヌを纏い、集団後方で脚を回したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

この日もクイン・シモンズ(アメリカ、リドル・トレック)がプロトンを先導した photo:A.S.O.
ブルターニュ地方の中心都市レンヌの市街地をかすめるように、北側をひたすら東に進んだ選手たち。中間スプリントの舞台であるヴィトレに入ると、アンテルマルシェのトレインからビニヤム・ギルマイ(エリトリア)のスプリントを開始。しかしそのスピードは伸びず、ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)が先頭通過。第3ステージの勝者であるティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)を退けたマイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)が、前哨戦で好調ぶりをアピールした。

中間スプリントを過ぎ、南に進路を変えた残り80km地点で、この日最初の逃げが生まれる。アタックしたのはトタルエネルジーに所属する若手フランス人コンビ、マチュー・ビュルゴドーとマッテオ・ヴェルシェ。わずかな逃げ切り勝利の可能性に懸け、2名は懸命に踏み続けた。

ビュルゴドーは2023年、ヴェルシェは2024年大会でそれぞれ区間2位と勝利に迫った2名だったが、相変わらず集団牽引をするアンテルマルシェは1分差以上を許してくれない。残り35km地点を過ぎると進路はラヴァル・エスパス・マイエンヌに向かって北に変わり、集団先頭にはコフィディスやチューダー・プロサイクリングがトレインを並べ始めた。

残り80km地点で飛び出したトタルエネルジーのマチュー・ビュルゴドーとマッテオ・ヴェルシェ photo:A.S.O.
4級山岳はビュルゴドーが先頭通過し、先頭からは残り13km地点でヴェルシェが遅れる。時を同じく、プロトンではメルリールがパンクに見舞われたものの、無事に集団へと復帰。残り9km地点でビュルゴドーも吸収され、勝負は大方の予想通り集団スプリントへと突入した。

目まぐるしく集団先頭が入れ替わるなか、巧みな位置取りからマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が番手を上げ、残り500mで一気に先頭に躍り出る。その背後からカーデン・グローブス(オーストラリア)がスプリントを開始すると、同時にミランも踏み始める。ライバルチームのトレインを何度も乗り換え、絶好のポジションを自ら確保したミランには、後方からワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が迫った。

グローブスが伸びを欠く一方で、ミランは頭を振りながらビッグギアを踏み込み、パワフルなスタイルでぐんぐんと加速。迫るファンアールトに並ぶことすら許さない圧巻のスピードでフィニッシュラインに飛び込み、両手を突き上げた。

先頭で踏み込むジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)にワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が迫る photo:A.S.O.
初出場で勝利を掴んだジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:CorVos
2019年のヴィンツェンツォ・ニバリ以来となる、6年ぶりのイタリア人勝者となったミラン。「いまだ自分が達成したことが理解できていない。自分への期待と夢を胸に出場したが、実際に勝利するのとは違う話。チームには自信があり、第3ステージでは(2位と)勝利に迫っていた。その時はスプリントが早すぎたので、今日は限界まで待って踏み込んだ」とミランは、初出場で掴んだツール初勝利を振り返った。

一方、復調の兆しを見せる2位のファンアールトは「各チームのリードアウトが残っていない混沌のスプリントだった。だから自ら位置取りをし、早めに仕掛けてミランの虚を突こうかと思ったのだが、最後は単純にミランの方が速かった」と勝者を称えた。

総合順位に変動はなく、ポガチャルがマイヨジョーヌをキープ。しかしマイヨヴェールではミランがポガチャルを抜き、繰り下げではなく正式な着用者となった。翌日は丘一つない平坦路のため、2日連続の白熱スプリントが期待される。

6年ぶりのイタリア人勝者となったジョナタン・ミラン(リドル・トレック) photo:A.S.O.
敢闘賞を獲得したマチュー・ビュルゴドーとマッテオ・ヴェルシェ(共にフランス、トタルエネルジー) photo:A.S.O.マイヨジョーヌを守ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

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