アングル:北欧に衛星発射場、宇宙戦略で脱「米依存」目指す欧州

 7月10日、北欧のスウェーデンとノルウェーのそれぞれ北部にある2つのロケット発射場が、欧州本土で初めてとなる人工衛星の打ち上げに向けて競っている。キルナのエスランジ宇宙センターに展示されたマクサス・ロケット。5月撮影(2025年 ロイター/Johan Ahlander)

[キルナ(スウェーデン)10日 ロイター] – 北欧のスウェーデンとノルウェーのそれぞれ北部にある2つのロケット発射場が、欧州本土で初めてとなる人工衛星の打ち上げに向けて競っている。トランプ米大統領の「米国第一」主義政策を背景とした対米依存度の低下を目指す動きや、ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州は防衛や宇宙開発といったさまざまな分野で独自の取り組みを強化している。

トランプ氏の元側近で、対立後にたもとを分かった米実業家イーロン・マスク氏の宇宙関連企業スペースXは、ウクライナでの通信に不可欠な衛星通信サービス「スターリンク」の人工衛星7000基へのアクセスを制限するとの懸念が出ており、欧州は急いで代替手段を探っている。

しかし、そこには大きな壁が立ちはだかっている。

米国が2024年に軌道上への人工衛星の打ち上げを154回実施したのに対し、欧州はわずか3回だった。欧州連合(EU)の調査によると、24年の宇宙ベンチャーに対する世界での公共投資額1430億ドル(約21兆円)のうち、欧州は10%に過ぎない。

人工衛星を送り込むのが地球低軌道に移行しているのも課題だ。低軌道衛星は打ち上げが安価で、通信への接続が改善される一方で、カバー範囲を最大化するためにはより多くの衛星を配備する必要がある。

米金融大手ゴールドマン・サックスの報告書によると、今後5年間に7万基の低軌道衛星が発射される可能性があり、これは従来の10倍に当たる。

EU欧州委員会のアンドリアス・クビリウス委員(国防・宇宙担当)はロイターに対し、「われわれは例えばイーロン・マスク氏との競争に負けてしまったが、打ち上げる機会を持つ必要があるのは明白だ」とし、「だからこそ、スウェーデンとノルウェーの欧州大陸で打ち上げる機会を持つことは非常に重要だ」と強調した。

現時点で欧州唯一の発射台は南米のフランス領ギアナにあり、パリから約7000キロ(約4350マイル)も離れている。今年早期にはロケット「アリアン6」の発射に成功した。

アリアン6はスペースXのロケット「ファルコン9」よりも大きな積載物を運ぶことができるが、再利用が可能ではなく、打ち上げコストが高い。また今後数年間の欧州の商業・軍事ニーズを満たすには十分とは言えない。

そこで、北欧の発射台の出番となる。

<貴重な優位性>

北極圏に入って約200キロ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、ロシアの国境近くに位置するエスランジ宇宙センターは約5200平方キロメートル(約2008平方マイル)の無人の土地にある。

沼や川に囲まれ、遠くには雪をかぶったスウェーデン最高峰が見える。世界最大級となる地下の鉄鉱石鉱山があるキルナに近く、鉄道や空港へのアクセスも優れている。また、ロケット部品の回収にも適しており、貴重な優位性がある。

エスランジ宇宙センターの責任者レナート・ポロマー氏は「ここにあるような広大な陸地は他にはない」と語った。

スウェーデン宇宙公社の機関であるエスレンジ宇宙センターは1964年に設立され、その数年後に最初の観測ロケット(軌道に乗らない研究用ロケット)を打ち上げた。2023年には欧州本土で初めての軌道衛星発射場となった。

軌道衛星の打ち上げ準備は着々と進められており、新しい大型の発射台、格納庫、研究施設が用意されている。

ノルウェー北部にあるのはアンドーヤ宇宙基地だ。ノルウェーが株式の過半数を所有し、防衛企業コングスベルグが10%を持っている。

アンドーヤでは今年3月、ドイツの新興企業ISARエアロスペースが製造した約1000キロの積載物を搭載可能な小型ロケットの打ち上げ試験が実施された。このロケットは30秒間飛行した後、海に落下した。

ISARの共同創業者のダニエル・メッツラー最高経営責任者(CEO)は、この半年間に防衛当局から非常に高い関心を持たれて、今後数年間の発射スケジュールが埋まっていると明らかにした。メッツラー氏は「率直に言って、おそらく最大の原動力はトランプ(米大統領)の復帰だと思う。その意味でトランプ氏は多分欧州のどの政治家よりも欧州の防衛に貢献した」と指摘した。

ISARは、来年に同社初の商業飛行を目指している。

<野心的スケジュール>

アンドーヤは年間30回の発射許可を持つ。エスランジは目標を設定していないものの、迅速な発射能力を提供するという北大西洋条約機構(NATO)の重要なニーズも満たすことになる。

アンドーヤとは異なり、エスランジは既存のハードウェアを活用することを選択した。米国のロケットメーカー、ファイアフライと韓国のペリジーと契約を結び、複数の選択肢を可能にしている。

2026年からエスランジでの打ち上げを計画しているファイアフライは、人工衛星が故障した場合の交換といった緊急のニーズに対応するため、24時間前の通告でロケットを発射できる迅速なサービスを提供する。

あるNATO当局者はロイターに「欧州は同じくらいか、さらに野心的なスケジュールを探るべきだ」との見解を示した。

ロケット供給企業は一部を採用できるロケットを開発しており、ISARのロケットはエスランジで試験が実施される予定だ。

しかし、全体的に取り組むべきことは多い。エスランジの責任者、ポロマー氏は「技術的なシステムを全て整えなければならない上、かなりの回数の試験や試行が必要になる」が、「私たちはあと1年程度でおそらく基地全体の準備を整えるだろう」との見通しを示した。

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