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「121」「79000」――これらの数字が何を表すか分かるだろうか。それぞれ「中国の100万人以上の都市数」「日本の100歳以上の高齢者数」である。人口学者のポール・モーランド氏は、出生率、都市化、高齢者の増加といった、人口動態に関する10のテーマから、世界の歴史と現在を解説し、未来の予測を試みている。そこからは、人口増加が必ずしも経済発展につながらないことや、高齢化が紛争解消に役立っていることなど、意外な事実が浮き彫りになる。本連載では、同氏の『人口は未来を語る 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』(ポール・モーランド著/橘明美訳/NHK出版)から内容の一部を抜粋・再編集、人口動態が今後の世界をどう変えていくかという論考を紹介する。

 今回は、先進国に共通して見られる「トリレンマ」の傾向について解説する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年5月31日)※内容は掲載当時のもの

■犠牲となる選択はなにか

 先進国が近代後の人口動態に向かうとき、各国はそれぞれに「トリレンマ」とでも呼ぶべき選択をしている。トリレンマとは二律背反ならぬ三律背反のことだが、ここでは3つの選択肢のうち2つを選び、もう1つを犠牲にするという意味で使わせていただきたい。

 3つの選択肢とは経済力、民族性、エゴイズムのことだ。「経済力」とは、わたしたちがいまや普通だと思っている好調な経済成長のことであり、「民族性」とは、ある特定の民族集団が、自分たちが祖国と見なす地域で優位を保つことであり、「エゴイズム」とは、狭義では、家族の形成より個人的計画を優先することである。

 ただし「エゴイズム」については、もっと範囲の広い複雑なものを指して使っているので、省略表現だと思っていただきたい。というのも、子供を持つのを先延ばしし、結果的に1人も持たない、あるいは1人か2人しか持たないことになるのは(もちろん子供ができない場合を別にしての話だが)、個人的欲求もさることながら、仕事を取り巻くさまざまなプレッシャー、経済的制約、親の介護、その他のありとあらゆる社会的プレッシャーが原因であることが多いからだ[17]。

 いかなる選択も、それをするかしないかという単純な決断の結果ではない。女性は多くの場合、家族の世話を含む家事と職業の両立において男性以上の重荷を背負い、子供を産み育てることにおいても男性以上のプレッシャーにさらされる。また先進国であっても、経済的制約あるいはほかの制約によって子供を持つことができない人々は多く、多くの国でもっと子供が欲しいのに持てないという声が聞かれる[18]。

 したがってわたしがここで使う「エゴイズム」という言葉は、個人のエゴイズムというより社会のエゴイズムのことで、人々に子供を持たない、あるいは小さい家族しか持たないという選択をさせるさまざまなプレッシャーと社会的選好のすべてが凝縮されていると考えていただきたい。

[17] 詳細な議論は、Mic, 25 May 2020: https://www.mic.com/p/11-brutally-honestreasons-millenials-dont-want-kids-19629045 (2020年10月26日閲覧)を参照。

[18] OECD, 17 December 2016: https://www.oecd.org/els/family/SF_2_2-Idealactual-number-children.pdf (2020年10月26日閲覧).

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