米自己勘定トレーディング会社ジェーン・ストリート・グループがインドで巨額の利益を上げた取引戦略は、他の市場ではここまでうまく機能しなかった可能性が高い。
同社が活用したのは、インド特有の市場構造だ。同国では現物株市場に比べてデリバティブの取引規模が300倍以上にも達しており、その背景にはオプション取引を好む個人投資家の圧倒的な存在感がある。
インド証券取引委員会(SEBI)によれば、こうした市場構造が、ジェーン・ストリートのような洗練されたプレーヤーが数百万人規模の地元投資家を犠牲にしながら利益を上げることを可能にしていた。
SEBIはジェーン・ストリートに、インド市場での取引を一時的に禁止し、484億ルピー(約820億円)超の利益を没収する方針を示した。
これに対しジェーン・ストリート側は不正行為を否定。世界中の高速取引業者が用いる裁定取引戦略を実行していただけだと主張している。
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総額5兆4000億ドル(約790兆円)規模に成長したインド株式市場の構造的な特異性に改めて注目が集まっている。何百万人もの新規投資家と国内資本の流入が加速したことで、レバレッジを簡単に利用できる株式デリバティブの取引が急拡大。2024年序盤のピーク時までの5年間で、取引規模は40倍以上に膨れ上がった。
インドは取引量ベースで世界最大のオプション市場となり、一時はその規模が自国経済の大きさすら上回るほどだった。

ニューデリーを本拠とする投資会社SKIキャピタルのマネジングディレクター、ナリンダー・ワドワ氏は「この極端な偏りは、インド市場の慢性的な構造問題だ」と語った。
デリバティブ市場の急成長により、シタデル・セキュリティーズ、オプティバー、ジャンプ・トレーディングといったグローバルな高頻度取引大手が参入。その結果、鮮明な格差が生じたことをSEBIの調査が浮き彫りにした。
2024年3月までの会計年度において、高速アルゴリズムを活用する企業は総額5884億ルピーの粗利益を上げた一方、個人投資家は6100億ルピーの損失を出していた。次年度では個人の損失がさらに拡大し、1兆ルピーを超えたと、SEBIが7日夜に公表した別の報告書で明らかにしている。
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SEBIの説明によれば、ジェーン・ストリートの戦略は市場を自社に有利な方向へ積極的に動かすというものだった。
SEBIによると、同社は24年1月17日、午前中にニフティ・バンク指数の現物株と先物を買い入れて市場を下支えする一方で、大量のオプションに対して弱気ポジションを取っていた。
後場になって同社は現物と先物市場でのポジションを一斉に解消。これにより株価指数は下落し、保有していた弱気のオプションによって利益を得たとされる。
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ジェーン・ストリートは週末に社員向けに送った文書の中で、SEBIの措置について「多くの誤った、あるいは根拠のない主張に基づいている」と反論した。
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問題の日の取引については、オプション市場で示されたニフティ・バンク指数と、現物株が示す水準との乖離(かいり)を埋めるための「基本的な指数裁定取引」だったと説明。
社員向け文書ではさらに、こうした取引活動は「金融市場の健全性にとって明確にプラスだ」と強調。「ジェーン・ストリートのような参加者がいなければ、インドのデリバティブ市場と実体経済との間に経済的な連関は存在し得ない」と主張した。
規制当局によれば、ジェーン・ストリートの戦略がインドで機能したのは、市場構造に特有の要因があったためだ。具体的には、現物市場の参加者が少なく流動性が低い一方で、デリバティブ市場には高い流動性があり、短期的な株価指数の動きに反応する個人投資家が多く、さらにオプション取引では極めて高いレバレッジが可能だったことが挙げられている。
SEBIの文書に記載された一例では、株価が100ルピーの銘柄について、権利行使価格100ルピーのコールオプション2株分のがわずか1ルピーで購入可能だったという。実質的に100倍のレバレッジをかけることができた。
こうした仕組みにより、短期的な利益を狙う一般的な個人投資家にとって、オプション取引は非常に魅力的な手段となっていた。

規制当局は既に、より厳格な規制の導入に着手している。昨年末にはルール変更を通じて、ジェーン・ストリートの戦略の中心にあったニフティ・バンク指数の週次オプション取引を廃止した。この銘柄は市場で特に活発に取引されていたものの一つだった。
加えて、オプション取引に必要な最低証拠金を3倍に引き上げ、投機的な参加を抑制する姿勢も示した。
こうした改革によりデリバティブ市場全体の取引量は減少したものの、満期日におけるジェーン・ストリートのような取引の余地は依然として残っていると、SKIキャピタルのワドワ氏は指摘している。
原題:Jane Street’s Lucrative India Trade Highlights Key Market Quirk(抜粋)

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