インドは、投機性の高い株式デリバティブ取引で、わずか5年で小規模なプレーヤーから世界最大の市場へと成長した。オプションを含む同市場の1日当たりの取引高は現在、約3兆ドル(約433兆円)に達している。

  特に未経験の個人投資家の間で人気が急激に高まっていることに対し、市場規制当局は懸念を強めている。これら投資家が短期間でリターンを得ようとするあまり、大手金融機関を相手に賭けが失敗すれば、多額の損失を被る恐れがあると警告してきた。

  さらに、一部の大口プレーヤーによる高度な技術を用いた「操作的」な慣行が、市場の健全性を損ねている可能性も指摘されている。

National Stock Exchange (NSE) in Mumbai

ムンバイのナショナル証券取引所の外に置かれた雄牛の像

Photographer: Dhiraj Singh/Bloomberg

  インド証券取引委員会(SEBI)は4日、米自己勘定トレーディング会社ジェーン・ストリート・グループに対し、詳細な調査が行われる間の措置として、インド証券市場へのアクセスを一時的に禁止すると発表。ジェーン・ストリートによる不法な利益の総額が484億ルピー(約820億円)に上るとし、この全額を差し押さえるとした。

  ジェーン・ストリートは、この暫定命令の内容に異議を唱えており、引き続き規制当局との協議を行うとしている。

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オプション取引とは?

  株式オプションは、投資家に保有株ポートフォリオに対するリスクヘッジを提供する金融商品だ。オプションの買い手は、対象の株式について、あらかじめ決められた価格と期日に買うまたは売る権利を得るが、この権利を行使する義務はない。

  インドでは、これらのデリバティブ商品が、株価の動きを予想して少額の資金で投機的な取引を行う手段として広く利用されている。投資家は、デリバティブ契約にかかる費用だけで、元手の最大5倍のレバレッジをかけたポジションを取ることができる。こうした費用は時には10ルピー(約17円)程度で済む。

  例えば、ある株式が5%上昇すると見込んだ投資家は、コールオプションを購入し、売り手(多くの場合は別の個人投資家)に少額のプレミアム(オプション料)を支払う。株価が5%以上上昇すれば利益を得られるが、下落した場合の損失は支払ったプレミアムに限定される。一方、市場価格よりも割安な行使価格で株を売る義務を負う売り手は大きなリスクにさらされる。

なぜ当局はオプション市場に懸念を抱くのか?

  近年、スマートフォン向け取引アプリの普及や口座開設の容易さ、SNS上の取引指南コンテンツの増加により、専門家ではない投資家によるオプション取引熱がインドで高まった。このような投資家の数は2019年には100万人未満だったが、現在では約700万人に達している。

  SEBIは、こうした投資家の未熟さや過度なリスク志向に懸念を示し、資金力と経験を備えた大手市場参加者を相手に安易に賭けをすることの危険性をたびたび警告してきた。

  24年に公表されたSEBI調査のアップデート版によれば、個人投資家の93%が24年3月末までの3年間でデリバティブ取引により損失を出した。1年間の損失額は73億ドルに達した。

  さらに24年4月には、ジェーン・ストリートが23年にインド市場で10億ドルの利益を上げたと開示し、インドのデリバティブ市場に世界の注目が集まるとともに規制当局の目も向けられた。

なぜ懸念を呼んだのか?

  高頻度取引(HFT)を行う企業は通常、アービトラージ(裁定取引)などの戦略で、柔軟性の高いオプション商品を利用している。これによって大口取引を同時に執行できる。

  こうした戦略は、強力なアルゴリズムによってマイクロ秒単位で大量の取引を行うプロのトレーダーによって実行される。こうした高速かつ高度な取引は、小口の投資家では太刀打ちできず、不正操作と見なされる可能性もある。

  ジェーン・ストリートがインド市場で巨額の利益を上げたことが明らかになって以来、SEBIは不正な市場操作の有無について調査を開始した。

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当局はどのような規制策を講じているのか?

  24年後半、SEBIはデリバティブ市場の加熱を抑えるための複数の措置を導入した。

  短期の投機的取引に対する規制を強化し、週次ベースで満期を迎えるインデックス・オプションの数を、最大8件から2件に制限した。これにより、価格変動から利益を得ることを狙って決済日にポジションを急増させる取引の機会が減少した。

  こうした契約はインドのナショナル証券取引所(NSE)が19年に導入したもので、SEBIは満期日の「過剰取引」や「ボラティリティー増大」を招いていると批判していた。

  短期の契約は、満期までにオプション価値が上がる可能性が低く、売り手の損失リスクも小さいことから、トレーダーにとって有利な条件だった。

  当局はさらに、証券会社に対し、満期日にオプション契約を売る投資家からより多くの証拠金を徴収するよう義務づけた。

  インド政府は25年、株式の短期売買による利益への課税を15年ぶりに強化し、先物・オプション取引の取引税を倍増させた。

India Derivatives Volumes Have Slumped from Past Peaks

 

 

これら対策の効果は?

  インドの先物・オプション市場の1日当たり取引高は24年2月に過去最高の6兆ドル近くに達したが、規制措置が実施された後、その取引高はほぼ半減した。

  それでも5年前の1日当たり1500億ドルの取引高を依然として大きく上回る水準だ。

  今後の展開は不透明だが、一部の世界的な高頻度取引企業や国内ファンドは、取引コスト増加によって利益率が圧迫され、インド市場への資本配分の魅力が低下する可能性があるとみられている。

原題:Why India Is Cracking Down on Its Huge Options Market: QuickTake(抜粋)

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