コメ売り場

止まらぬコメ価格の高騰に、政府は備蓄米の放出などの強硬策を強いられている

EPA/FRANCK ROBICHON

スイスの主要報道機関が先週(6月2日~9日)伝えた日本関連のニュースから、①コメ危機の原因は?②ispace、月面着陸に失敗③政府の標的となる旧統一教会、の3件を要約して紹介します。コメ危機に関するスイス人読者のコメントに注目です。

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/10 13:18

ムートゥ朋子

翻訳・編集、週刊「日本のニュースinスイス」担当。得意分野は政治・経済金融。
東京出身。日本経済新聞政治部・経済部で官庁取材や日銀・金融市場を担当。2017年スイスインフォ入社。

筆者の記事について

日本語編集部

「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録はこちら

コメ危機の原因は?

備蓄米の放出や随意契約の解禁など、コメ価格の高騰に日本政府はさまざまな対応を打ち出しています。スイス・ドイツ語圏の大手紙NZZとターゲス・アンツァイガーはともにこれをReiskrise(コメ危機)と名付け、詳しく報じました。

NZZは、コメ危機は「神が与えたものでも自然現象でもなく、改革の遅れの結果である」と言い切り、2つの要因を挙げました。

1つ目は、価格下支えを目的とする減反政策です。小規模・兼業農家を守る狙いですが、その平均耕作面積はわずか3ヘクタール。スイスの21ヘクタール、ドイツの61ヘクタールを大きく下回っています。一方で「高齢化により小規模農家が衰退し、大規模農家やアグリビジネスに場所を譲っている」ことが2つ目の要因だといいます。

ターゲス・アンツァイガーも減反政策を紹介しつつ、昨夏のパニック買いや穀物価格高騰に伴うコメ需要の増加、不作など複合要因を挙げています。石破茂首相の「いまなんで米がこんな高いのかということの理由を解き明かした人は誰もいない」との国会答弁も引用し、政府が解決策に窮している現状を伝えました。

ターゲス・アンツァイガーの記事には、8件の読者コメントが寄せられています。ある読者は、減反政策について「すぐにスイスを連想した。ここでは物事のやり方が違う」とコメント。「スイスでは価格が据え置かれ、生産過剰になると途方もなく安い価格で海外に輸出されてしまう。税金で生産を支えてきた国民により安い価格で買えるチャンスはない」と違いを説明しました。

また「日本人の大多数は非常に国家主義的だ。外国産米の購入を避けるためなら、私生活に制約があっても構わないと思っている」とするコメントも。これに対しては別の読者から「日本の素晴らしいコメ文化を不当に扱っている」「それは日本人が衛生と品質を非常に重視しているからだ」との反論もありました。(出典:NZZ外部リンク、ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

ispace、月面着陸に失敗

日本の民間企業として初の月面着陸に挑戦していた宇宙ベンチャー「ipace(アイスペース)」は6日、着陸船「レジリエンス」が月面への着陸に失敗したと発表しました。日本の宇宙産業はスイスでも注目されており、ドイツ語圏・フランス語圏外部リンクの通信社(Keystone-SDA/ATS)のほか、NZZ(ドイツ語圏)やル・タン(フランス語圏)といった大手紙も取り上げました。

NZZは「世界有数の月面輸送サービス業者としての地位を確立しようとするアイスペースの野望は、またしても挫折を味わうことになるかもしれない」と厳しい評価。米国のライバル、インテュイティブ・マシーンズとファイアフライ・エアロスペースに後れを取っており、「競争が激化する中、アイスペースは今、行動を迫られている」と指摘しました。

ただアイスペースには強い味方がいることを紹介。三井住友海上火災保険は2022年にアイスペースと共同で「月保険」を開発し、打ち上げから月面着陸までのあらゆる損害を包括的にカバーしています。さらにメガバンクの三井住友銀行が「月旅行者のスポンサー」の役割を果たしており、アイスペースにまだまだ未来があることを示唆しました。

ル・タンも同2社の成功を紹介しながらも、他国にも失敗例は多く、月面着陸の難しさを強調しています。レジリエンスにはローバー(月面探査車)や他社の開発した科学機器のほか、スウェーデンの芸術家ミカエル・ゲンバーグ氏が設計した家の模型などを搭載していたことを紹介。「アイスペースは、さまざまな技術実証を行うことを目的としていた」と伝えました。(出典:NZZ/ドイツ語、ル・タン外部リンク/フランス語)

政府の標的となる旧統一教会

東京地方裁判所が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に解散を命令してから3カ月。フランス語圏のスイス公共放送(RTS)はラジオ番組Tout un mondeで、判決後も「この物議を醸す組織が消滅する可能性は低く」、法改正がなければ虐待は続くという被害者の声を伝えました。取材したのは日本在住のフリージャーナリスト、西村カリン氏です。

記事は「旧統一教会は、信者たちに偽の霊的製品・サービスに対して天文学的な金額を組織的に支払わせていることで特に批判されている」と解説。しかし2022年に安倍晋三元首相が暗殺されるまで、教会の存在は黙認されてきました。「安倍氏が(統一教会創設者)文在寅派であるとの(暗殺者による)疑惑は確かに的を射ていた」。与党の国会議員約200人が同派の支援を受けていたと伝えました。

原告弁護団の1人、山口広氏はRTSに、3月の判決が旧統一教会の活動を妨げるものではないと説明します。また被害者の1人は、判決後も信者の子孫に対する虐待は続き、「子どもたちは依然として命を落とす危険にさらされている」と訴えました。

旧統一教会は控訴しています。判決が確定すれば被害者はいくらかの補償を受けられる予定ですが、「判決を予見して、教団は既に資金を他の場所に移しているようだ」と報じています。(出典:RTS外部リンク/フランス語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

猫100匹の死骸、保護団体の個人宅でみつかる 熊本外部リンク(6/3)
出生率・出生数が過去最低を更新外部リンク(6/4)
スイッチ2発売 記録的売上げ見込まれる(6/5)
オオカミ復活を目指す保護協会 生態系回復へ外部リンク(6/6)
スタジオジブリが創業40周年外部リンク(6/7)
中国空母2隻が日本のEEZに出現外部リンク(6/9)
1~3月期GDP改定値、0.2%減に上方修正外部リンク(6/9)

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「自殺カプセル『サルコ』運営団体代表が死亡」(記事/日本語)でした。他に「スイスの元外交官50人、ガザめぐる政府の『沈黙』を非難」(記事/日本語)、「『スイスで最も有名な囚人』ブライアン・ケラーに懲役刑」(記事/英語)も良く読まれました。

週刊「スイスで報じられた日本のニュース」に関する簡単なアンケートにご協力をお願いします。

いただいたご意見はコンテンツの改善に活用します。所要時間は5分未満です。すべて匿名で回答いただけます。

≫アンケートに回答する外部リンク

次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は6月16日(月)に掲載予定です。

ニュースレターの登録はこちらから(無料)

校閲:大野瑠衣子

続きを読む

佐柳島

おすすめの記事

猫島、ごみ箱、ポケカ…スイスのメディアが報じた日本のニュース

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/02

スイスの主要報道機関が先週(5月26日~6月1日)伝えた日本関連のニュースから、①「猫島」おびやかす高齢化②街にごみ箱復活?③スイスにポケモンカードブームが再来、の3件を要約して紹介します。

もっと読む 猫島、ごみ箱、ポケカ…スイスのメディアが報じた日本のニュース

軍隊

おすすめの記事

スイスで放射能測定の合同演習 

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/04

スイスでは2~6日、国際チームがヘリコプターで空中の放射能測定を行っている。緊急時に広い範囲の放射能を迅速にチェックする予行演習だ。

もっと読む スイスで放射能測定の合同演習 

サムネイル

おすすめの記事

今さら聞けないAI用語

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/06

人工知能(AI)に関連する用語は巷にあふれている。それらは何を意味するのか? 自然言語処理(NLP)や大規模言語モデル(LLM)といったよく聞く用語について、短い動画で説明する。

もっと読む 今さら聞けないAI用語

UBS

おすすめの記事

スイス政府、金融規制改革の最終案を発表

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/06

スイス連邦内閣は6日、クレディ・スイス危機を踏まえた金融規制改革の最終案を発表した。自己資本規制を強化し、金融監督局の権限も強化する。

もっと読む スイス政府、金融規制改革の最終案を発表

スイス南部ヴァレー(ヴァリス)州のブラッテン村は5月28日、大規模な地滑りで壊滅的な被害を受けた。写真は土砂流が巨大な煙を巻き上げながら集落めがけて流れていく瞬間

おすすめの記事

スイスで地滑り増加、気候変動が理由?

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/07

近年、アルプス山脈では地滑りが増えている。スイス災害史上最悪と言われる今回の災害は、やはり温暖化のせいなのか?

もっと読む スイスで地滑り増加、気候変動が理由?

ダム

おすすめの記事

台風の目はダム スイス・EU電力協定

このコンテンツが公開されたのは、

2025/06/08

スイスの貯水ダムは欧州の手に渡るのだろうか?スイス・欧州連合(EU)間で結ばれる予定の電力協定で注目点の1つとなっている。

もっと読む 台風の目はダム スイス・EU電力協定

WACOCA: People, Life, Style.