日本では意外と知られていないが、フランスは“日本アニメ・マンガ大国”とも呼べるほどの熱量を持つ国だ。国民的ロボットアニメの復活、新鋭マンガの爆発的ヒット、その背景には政府主導の文化支援策「カルチャーパス」や、長年培われたマンガ文化の土壌がある。この記事では、そんなフランスのアニメ・マンガ事情を、最新トレンドと制度面の両面から掘り下げていく。

国民的ロボットアニメ『グレンダイザー』、フランスで再燃

1970年代の日本製ロボットアニメ『UFOロボ グレンダイザー』は、フランスにおいて伝説的な人気を誇る作品だ。現地では『グレンダイザー』は「Goldorak(ゴルドラック)」のタイトルで放送され、視聴率100%を記録したとも言われる​。「放送中は街から人が消えた」という逸話まで残るほどで、まさにフランスの国民的ヒーローアニメとして定着したのである。​

 フランスで根強い人気を持つグレンダイザーは、近年になり再び脚光を浴びている。2021年にはパリ日本文化会館で関連展覧会が開催され、フランス郵政公社から記念切手まで発行された​。さらに同年、原作者・永井豪氏公認のもとでフランス人チームが描いた続編コミック『BD Goldorak』が出版されて話題となった​。

2023年にはフランスのゲーム会社Microids(ミクロイド)によって公式ゲーム化も実現し、プレイステーションやNintendo Switch向けに発売されている​。放送から約 46年を経た今でも、展示会や新作でグレンダイザー愛が再燃し、老若問わず多くのファンに「今でも色あせないヒーロー」として愛され続けている。

ジャンプ+発の新星『幼稚園WARS』が2024年フランスで大ヒット

日本のWebマンガ誌「少年ジャンプ+」で連載中の『幼稚園WARS』が、2024年のフランスで驚異的なヒットを記録している。現地で発売された日本発の新作コミックスの中で、2024年売上部数1位を達成したのだ​。連載開始(2022年)から日が浅い作品が海外でこれほど支持されるのは異例であり、現地ファンの熱狂ぶりに作者自身も「嬉しいです!!!ありがとう〜!Merci」とSNS上で感謝の言葉を述べている​。

幼稚園WARSがこの度!2024年のフランス🇫🇷で刊行された日本の新作漫画の中で売上部数が1位になったそうです〜! 嬉しいです!!!ありがとう〜!merci🎊

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▼こちらから▼https://t.co/ti6D6qWVXi pic.twitter.com/CPe5kGv0lh


— 千葉侑生@幼稚園WARS (@chibayou09421) February 4, 2025

『幼稚園WARS』は世界の大物政治家たちの子どもが通う超エリート幼稚園を舞台に、元・伝説の殺し屋の女性「リタ」(囚人番号999)が園児たちを狙う刺客から日々守る…という破天荒なアクションコメディである。日本ではまだアニメ化されていない新鋭マンガでありながら、フランス語版コミックス第1巻は2024年4月に発売されるや瞬く間に人気に火がついた​。

出版元の仏出版社Ki-oonによる現地プロモーションや、ハイテンションなストーリー展開が功を奏し、サイン会やインタビューのため作者がパリを訪れるほどの盛り上がりを見せているという。日本でも注目の同作が海外で先にブレイクする現象は、フランスにおける日本マンガ受容の幅広さを示す一例と言えるだろう。

“マンガ大国”フランスを支えるカルチャーパスと読者層の変化

これほどまで日本のアニメ・マンガが親しまれる背景には、フランス独自の文化的土壌と政策的後押しがある。フランスは世界で日本に次ぐマンガ消費国であり、推定700万人超(人口の10%以上)がマンガを読むとされる​。

元々バンド・デシネ(フランス発祥のコミック)の愛好者が多く「漫画は大人も読むもの」という土壌があったことに加え、1970年代以降に『グレンダイザー』を皮切りとする日本製アニメがテレビ放送されてファン層を開拓した歴史が大きい​。実際、「まずアニメありき」でマンガが受け入れられていったと分析する指摘もある​。

1980~90年代には『ドラゴンボール』や『NARUTO』が子供たちの間で大ブームとなり、一般書店に日本マンガ専用コーナーが出現した​。それを読んで育った世代が大人になった現在、親子二代で日本のマンガ・アニメに熱中するケースも珍しくない。

近年ではフランス政府の文化支援策「カルチャーパス(Pass Culture)」もマンガ人気に拍車をかけた。カルチャーパスは18歳の若者に300ユーロ(約4万円)を支給する制度で、書籍や映画チケット、音楽レッスン受講など幅広い文化活動に使える​。

2025年に支給額の変更があり、17歳時の支給額は30ユーロから50ユーロに増額した一方で、18歳時の支給額を従来の300ユーロから150ユーロに減額。とはいえ制度自体は健在で、その影響はまだまだ強いと考えられる。

さて、この「カルチャーパス」だが、2021年5月の導入直後から申し込みが殺到し、配信アプリは100万回以上DLされる盛況ぶりだったと報じられている。ところが蓋を開けてみると、パス利用額の約84%が書籍に充てられ、そのうち3/4を日本のマンガが占めたという。若者たちがこぞってマンガ購入に使ったため、「カルチャーパスは瞬く間にマンガパスになった!」との声さえ上がったほどだ​。

事実、2021年時点でパス経由の売上上位12作品が『ワンピース』『鬼滅の刃』『進撃の巨人』『僕のヒーローアカデミア』『呪術廻戦』『ベルセルク』『NARUTO』といった日本マンガ一色を占めていた。
書籍購入全体の54%が日本マンガだとの指摘に対し、「対象から日本の漫画を除外せよ」という議論も国会で一部あったが(野党からの修正案提起)、最終的には却下されている​。むしろ政府発表によれば、導入から約2年で累計1,450万冊以上の書籍購入を後押しし​、若者の読書習慣の底上げに繋がったという分析もある。日本のマンガが文化として正式に認められた形であり、市場拡大の追い風となった。

フランスで翻訳出版されている日本発の作品数は年々増加しており、そのジャンルも多彩だ。少年マンガ系のアクション・バトル作品の人気は依然として強く、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などは発売のたびにベストセラーランキングを賑わせている​。
近年はスパイコメディの『SPY×FAMILY』がフランス語版累計100万部を突破し、現地ファッションブランドとコラボするなど一大ブームとなった​。
さらに『進撃の巨人』のようなダークファンタジーから、『ベルサイユのばら』といった往年の名作まで幅広く読み継がれている。かつては専門店でしか買えなかったマンガが、今では大手書店やスーパーマーケットでも平積みされており、老若男女が日常的に手に取る存在になった。フランスの出版業界における日本マンガの市場シェアは50%近くに達するとも言われ、コミック売上を牽引する存在となっている。

熱き“マンガ愛”が生むこれからの展開

以上のように、フランスにおける日本のアニメ・マンガ人気は一過性のブームではなく、世代を超えて根付いた深い文化現象である。その情熱はレトロなロボットアニメへの郷愁から最新Web発マンガの発掘まで幅広く、政府の支援策までも追い風にして今なお拡大を続けている。現地では毎年Japan Expo(ジャパンエキスポ)をはじめ大規模なイベントが開催され、多くのファンがコスプレや作品談議に興じている。こうした熱気あふれるフランスのアニメ・マンガ事情は、日本の業界にとっても大きなビジネスチャンスだ。

実際、日本の出版社やスタジオが仏企業と組んで現地市場向けに作品を展開する例も増えている​。今後もフランス発の新たなヒットやコラボレーションが生まれる可能性は高く、改めて「フランスは第二のマンガ大国」であることを実感させられるだろう。

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