米国をはじめとする世界の多くの国々で、今年に入って国債利回りが大幅に上昇しており、不安を抱える人々の目には、こうしたトレンドの常態化の可能性が市場で日に日に色濃くなっている。

  米国債利回りは世界的な借り入れコストの上昇を主導しており、世界的な金利の指標や投資家のセンチメントのシグナルとして、28兆ドル(約4400兆円)規模の米国債市場で利回りの高止まりが長期化すれば、各国・地域の経済や資産価格にも影響を及ぼす恐れがある。

  利回り上昇には幾つかの要因が考えられる。まず、10日に発表された昨年12月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数の伸びが予想を大幅に上回ったことに代表されるように、米経済は力強さを維持しており、米金融当局は次回利下げのタイミングを見直している。

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  また、トランプ次期政権は連邦債務残高の圧縮よりも経済成長を優先する施策を掲げ、財政赤字拡大の下での物価上昇への懸念もある。このような要因が重なって本来、最も安全な資産であるはずの米国債を巡りリスクが高まっている。

  米10年債利回りに限っても、過去4カ月間で1ポイント余り上昇し、2023年に一時的に突破した5%が視野に入る。こうした例外を除けば、世界的な金融危機以前にさかのぼるまで目にすることのなかった水準だ。

Fed Conundrum

Ten-year yields rise more than 100 basis points even as Fed cuts

Source: Bloomberg

  期間が長めの米国債利回りは既にこの水準を付けており、ウォール街では5%が「ニューノーマル(新常態)」との見方が広がりつつある。英国や日本など他の国々でも国債相場を巡る投資家の懸念が高まり、利回り急上昇は国際的な流れとなっている。

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市場のかんしゃく

  PGIMフィクスト・インカムのグレゴリー・ピーターズ共同最高投資責任者(CIO)は国債市場について、「米国でも世界的にもタントラム(かんしゃく)のような状況が見られる」と指摘した。

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グレゴリー・ピーターズ氏

Photographer: Jason Alden/Bloomberg

  一部の人々にとって、利回りの上昇は金融危機や新型コロナウイルス禍の緊急措置を受けた長年の超低金利からの自然な調整の一環と映る。一方、多大な困難をもたらす懸念すべき新たな力学と捉える見方もある。

  米国債市場の緊張を背景に、米住宅ローン金利は7%前後の水準に戻り家計に負担となっており、企業の資金調達コストも膨らみそうだ。楽観的な株式投資家も利回り上昇が強気市場に水を差しかねないと憂慮し始めている。

  米金融当局は昨年9月に金融緩和に着手し、景気減速やインフレ鈍化と共に利下げが続いて米国債相場が押し上げられると予想されていた。しかし実際は米経済は堅調さを維持し、インフレ鈍化がどの程度のペースでどこまで進展するか疑問が生じる形となっている。

  15日に発表される12月の米消費者物価指数(CPI)でも、変動の激しいエネルギーと食品を除くコア指数は小幅な鈍化にとどまると予想されている。米消費者の長期インフレ期待も08年以来の水準に上昇し、物価高への警戒感が鮮明となった。

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  複数の米金融当局者は長期間にわたる政策金利の据え置きを支持する意向を示唆した。また、最新の雇用統計を受けてバンク・オブ・アメリカ(BofA)が年内の米追加利下げは皆無とする見通しを明らかにするなど、ウォール街の金融機関の間でも利下げ観測が後退している。

  チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は10日、ブルームバーグテレビジョンに対し、「米金融当局は短期的に見て、利下げについて話す余地がほとんどないのではないか」との見方を示した。

債券自警団?

  金融政策は全体像の一部に過ぎない。米国の債務残高と財政赤字が膨らむにつれ、特にトランプ次期大統領の就任を控え、財政政策や予算の決定と、それが市場と米金融政策にどのような意味を持つかについて、投資家はますます注視するようになっている。

  数十年も前から使われている「債券自警団」という言葉は、債券を売却したり売却すると脅したりすることで、政府の予算政策に影響力を行使しようとする投資家を指すが、ウォール街のコメントや会話に再び登場するようになっている。

   トランプ氏が昨年の大統領選で公約した減税などを踏まえれば、財政赤字のさらなる拡大が見込まれる。ソシエテ・ジェネラルのグローバル・ストラテジスト、アルバート・エドワーズ氏は政治家の間には「財政引き締めの意欲は皆無と見受けられ、債券自警団が徐々に覚醒しつつある」と指摘。「ドルが世界の準備通貨であるため、米政府が極限まで借り入れを行うことができるという議論はいつまでも通用するわけではない」と指摘した。

  ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、米国の債務残高が国内総生産(GDP)比で34年までに132%に達すると推計。これは市場ウオッチャーの多くが持続不可能と見なす水準だ。

タームプレミアム

  PGIMフィクスト・インカムのピーターズ氏は、こうした環境で米10年債利回りが5%を上回ったとしても「全く衝撃的ではない」と話す。ブラックロックやティー・ロウ・プライスも最近、期間が長めの米国債の購入を続けるのに当たって、投資家がさらに魅力的な金利を要求するようになるだろうとして、5%が合理的な目標だとコメントした。

  財政赤字の拡大に伴い、国債発行の増加も予想される。現在のペースを踏まえれば、米国債市場は今後10年間に50兆ドルと、現行の2倍近くに膨らむ可能性がある。16日に上院財政委員会で指名承認公聴会に臨むベッセント次期財務長官にとって、安定した需要が期待できるか不透明な中で、困難な課題を突きつけることになる。  

  期間が長めの国債購入に際して投資家が求めるタームプレミアムは高まりつつあり、クレディットサイツの米投資適格&マクロ戦略責任者ザカリー・グリフィス氏は「米国の財政の先行き懸念が高まっていることを示唆している」と指摘。「イールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化は巨額かつ増大する赤字との歴史的関係にも一段と合致する」と説明した。

Return of Risk Premium

Investors are demanding more yield for the risk of holding long-term bonds

Source: New York Fed

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ジム・ビアンコ氏

Photographer: Hollie Adams/Bloomberg

パラダイムシフト

  米金融環境の引き締まりで景気が悪化すれば、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる金融当局も利下げを再開することができ、米国債利回りも低下に転じるとの見解があるのも確かだ。

  だが、利回り上昇の背景には構造的な理由があり、それは正常な状態への回帰とは対照的なパラダイムシフトを示唆していると指摘する声もある。

  JPモルガン・チェースのストラテジストは今月発表したリポートで、米10年債利回りが将来的に4.5%以上で推移すると予想する理由として、脱グローバル化や人口高齢化、政治的変動、気候変動対策への支出の必要性を挙げた。

  BofAによれば、新型コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)初期の20年に利回りが過去最低を記録後、米国債は過去240年間で3回目となる 「大債券弱気相場」に既に突入している。マクロ調査会社ビアンコ・リサーチの創業者、ジム・ビアンコ氏は数十年にわたった強気相場の「サイクルは終わった」との認識を示した。

原題:Global Bond Tantrum Is Wrenching and Worrisome Start to New Year (1)(抜粋)

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