11兆ドル(約1740兆円)規模を誇る中国国債市場の投資家は、世界2位の経済大国に対し、かつてないほど悲観的になっている。1990年代に日本が経験したデフレスパイラルに中国も陥ると見込む向きも出ている。

  中国当局が打ち出した一連の景気刺激策にもかかわらず、10年債利回りは低下し、この数週間で過去最低水準を付けた。米国債利回りとは300ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)もの開きが生じている。

  中国債利回りは、2008年の世界金融危機や新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)時の水準を大きく下回る。数十年続く恐れもある経済の停滞を止められないのではないかという懸念の強まりが浮き彫りとなっている。

  債券市場の織り込みが正しいとすれば、その影響は極めて大きい。デフレが長期化すれば、世界最大の経済成長エンジンの一つである中国経済の足かせとなり、世界2位の人口を擁する中国の社会的安定にも新たなひずみが生じ、金融市場からの資本流出も加速する可能性がある。

Abandoned Greenland Group Property In Shenyang

遼寧省の未完成住宅

Photographer: Andrea Verdelli/Bloomberg

  中国の証券大手10社はいずれも日本の失われた数十年に関するリサーチを発表しており、投資家が日本化リスクをどれほど深刻に受け止めているかを示している。野村総合研究所のチーフエコノミストで、日中両国の比較で知られるリチャード・クー氏は、中国の企業やシンクタンクから見解を聞きたいとアプローチを受けていると明かす。ゴールドマン・サックス・グループは今週、ここ10年近くで最悪の年明けに動揺している中国の株式投資家にとって、日本のケースは「貴重な指南書」になると指摘した。

  中国がバブル崩壊後の日本と同じような状況に陥るかは分からないが、類似点は無視できない。日中両国は不動産市場の崩壊や民間投資の低迷、消費の伸び悩み、巨額の債務、急速な高齢化に苦しんできた。中国政府による国内経済の管理強化を楽観的な理由として挙げる投資家でさえ、当局の力強い対応が遅れていることを懸念している。日本から得られる明確な教訓の一つは、当局が投資家や消費者、企業の悲観的な見方を払拭(ふっしょく)するのに時間がかかればかかるほど、成長を取り戻すことがますます難しくなるという点だ。

  アバディーンの投資ディレクター、シンヤオ・ヌン氏は「これは悪循環であり、是正しなければ悪化の一途をたどるだろう」と分析。「日本の教訓には、心理的な側面もある。つまり、こうした状況が長引けば長引くほど企業や消費者のマインドも低下する」と話す。

China Bond Yields Tumble

Its 30-year sovereign bond yield has fallen below Japan’s

Source: Bloomberg

  リチャード・クー氏は「債券市場はすでに『バランスシート不況に陥っている』と中国の人々に示している」と語る。バランスシート不況とは、日本が長らく苦しんできたデフレを説明する方法としてクー氏が広めたもので、多くの企業や家計が債務を減らす一方、貯蓄を増やすことで、経済活動が落ち込む状況を指す。

  中国当局は対策を講じていないわけではない。昨年9月下旬から打ち出した広範な景気刺激策が国内経済を下支えし、習近平国家主席は5%前後に設定した24年の国内総生産(GDP)成長率目標の達成に自信を示した。今年は財政支出を強化する方針で、内需拡大を最優先課題としている。

  問題は、これまでの政策対応に物価下落を反転させるほどの積極性がなかった点だ。低調な消費マインドや不動産危機、不透明なビジネス環境が影響し、物価は伸び悩んでいる。9日発表される昨年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は引き続きゼロに近く、生産者物価指数(PPI)の下落も続くと見込まれている。経済全体の物価を示す最も幅広い指標であるGDPデフレーターは、今世紀最長のマイナス局面にある。

大きな違いも

  だが、誰もがバランスシートに関する警告を受け入れているわけではない。現在の中国と90年代後半の日本との間には大きな違いもあり、特に中国では平均所得が低く、その分成長の余地が大きいと指摘する声もある。

  アクサ・インベストメント・マネージャーズのエコノミスト、ワン・インルイ氏は、家計と企業の支出減少は「部分的なバランスシート不況」に過ぎないことを示唆しているとの見方を示す。

  ブルームバーグ・エコノミクスの曲天石エコノミストは、景気刺激策の積み重ねと住宅市場の底入れの可能性により、中国経済は26年に持ち直す可能性があると分析。電気自動車(EV)を含む新産業の役割が大きくなる一方、不動産セクターによる経済の足かせは和らぐかもしれないと述べた。

日本からの教訓

  どのような見方があるにせよ、日本の1990年から2010年までの失われた20年は中国資産への投資家に厳しい警告となっている。

  日経平均株価は同期間でその価値の70%余りを失い、企業や銀行の痛手はさらに大きくなった。長期にわたる異次元金融緩和やコーポレートガバナンス(企業統治)を巡るパラダイムシフト、待望のインフレ転換を経てようやく昨年、日経平均は史上最高値を更新した。

Japan Financial Markets

日経平均株価は1989年12月29日に史上最高値を付け、この記録は2024年2月まで破られなかった

Source: Kyodo News/AP Photo

  日本の10年債利回りは90年に8%を超えていたが、その後は長期にわたって低下。2010年代半ばにはゼロを割り込んだ。超低利回りはデフレの特徴であり、内需を活性化させるために中央銀行が低金利を維持すると投資家は見込んだ。

  中国市場も同じ方向に進みつつある。13年に5%弱だった10年債利回りは6日には1.6%を割り込んだ。本土株のCSI300指数は21年2月に付けた高値から30%余り低い水準で取引されている。

  トランプ次期米大統領の就任後、インフレ圧力が強まるとの見方から利回りが上昇している米国債市場などとは極めて対照的だ。

Inflation Divergence

China’s inflation is hovering near zero while Japan’s picks up

Source: Bloomberg

  しかし、日本化が実際に起きれば、投資家にもチャンスが生まれるだろう。中国の海通証券は昨年公表した複数のリポートで、日本の失われた数十年の勝者を分析。高配当株や成長余地のあるテクノロジー企業、多様な収益源を持つ輸出銘柄などの投資機会を指摘した。

  新興国への投資歴が長いマーク・モビアス氏のように、中国には日本の二の舞を避ける手段があると考える向きもある。「政府は経済を強く管理できるため、マイナス要因の多くを軽減する、あるいは排除することを目的とした金融面の措置を講じる能力がある」とモビアス氏は話す。

China's Geely Makes First Shipment of Zeekr EVs to Europe

太倉港で欧州に輸出される電気自動車

Source: Bloomberg

  だが、中国にとって時間的余裕は少なくなっており、当局は日本の苦境から早急に学ぶ必要があるとアナリストらは指摘する。経済全体のアニマルスピリットを復活させ、人々の消費意欲を高めるよう促すアドバイスはよく目にするが、マインドの危機が続いていることを考えると、それも容易ではない。

  マネックスグループのエキスパートディレクターで、数十年にわたり日本を調査してきたイェスパー・コール氏は日本経済が好転し始めたのは、当局がインフラや企業に資金を投入するのではなく、「国民の懐にようやく直接お金を回すようになってから」だと分析。「政治家がその教訓を学ぶまで、基本的に20年かかった。中国の指導者らがこの教訓を学び、人々の購買力を高める知恵を持っていると願っている」と語った。

原題:Chinese Markets Show Growing Alarm Over Deflationary Spiral(抜粋)

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