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2024年は日本、アメリカをはじめ多くの国や地域で選挙が相次ぐ世界的な「選挙イヤー」となり、政治は新たな転換点を迎えた。国際政治を専門とする東京大学名誉教授の藤原帰一は、政治の変わり目となった選挙として特にイギリス、フランス、インドが印象的だったと振り返る(※取材時、10月25日時点)。
「イギリスでは労働党が政権を奪取し、キア・スターマーが首相に就任しました。しかし、この勝利は労働党の手腕というよりも、保守党が自滅し、改革派のリフォームUKに支持を奪われた結果です。またフランスでは、マリーヌ・ル・ペン率いる右派の国民連合が第1党となり、大統領制ですから政権交代こそ起こりませんでしたが、移民の制限を政策の柱とする右派の勢力拡大が一層明確になりました。移民問題はフランスだけでなく、ヨーロッパ全体で大きな議論の的となっており、社会の分断を招く一因となっています。この流れはフランス国内だけでなく、ヨーロッパの政治全体に影響を及ぼしつつあります。そしてインドでは、ナレンドラ・モディ首相のインド人民党が政権を維持したものの、連立政権への依存が顕著になりました。自由な選挙戦ができないため、インド人民党が勝つことが決まっていた中で予想以上の大敗だったと思います。もちろん、ロシアではウラジーミル・プーチンが再選し、台湾やメキシコではそれぞれ総統、大統領が変わるも与党はそのままなため、すべてが変化したわけではありませんが、これまでの政治が選挙によって変わる節目がいくつかの国で起こったと感じています」
政治の流動化が起こるか起こらないか
一方、日本の選挙風景は長年、固定的な傾向を保ち続けている。これこそが世界との大きな違いだと指摘する。「私が子どもの時代から自民党政権が続いていたため、政権交代が起こるときには新鮮な衝撃を受けるわけです。日本の選挙制度は小選挙区比例代表並立制を採用しており、選挙そのものは自由で公平に行われているとされています。しかし、これだけの長期間にわたって与党が一党優位を保ち、権力を握っているところは世界でもあまりありません。普通選挙で指導者を選ばない中国はもちろん、ロシアなど選挙に対する制限が極度に厳しいなかで与党が支配することはありますが、一党優位であったイタリアのキリスト教民主党はなくなって久しく、インドの国民会議派も野党として踏みとどまっている状態です。一方、日本では選挙が与党の旗を据えるものになっており、選挙が政権選択ではなく現政権への批判の場にとどまることで、政治的なダイナミズムが欠如し、結果的に政党間の実質的な競争が弱まっていると感じます」
実際、日本における政権交代は、1993年の非自民連立政権や2009年の民主党政権のときだけだ。しかし、どちらも短命に終わり、特に民主党政権は普天間基地移設問題や東日本大震災への対応の混乱により、国民の信頼を得られず、再び自民党が政権を奪還した。「このときに政権交代を続けていくような政治の流れに変わらなかったことが大きな損失だと思います。今必要なのは、民主党政権が悪夢だったという思い込みから脱却し、政党の競合がむしろ政治を意味あるものにしていく機会なのだと考えること。政治の流動化が起こるか否かが大切なのです」
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