ネットの恐怖を知った中学生時代、もう2度とネットでサインは買いません。
というか、サインは買うものではありません(大人)
BGM:[Music] 人生、踊らにゃ – beco (騒音のない世界)
URL:https://www.youtube.com/watch?v=nhsJZSkfuwI
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中学生の頃、AKBが流行っていた。前田敦子センターの、いわゆる全盛期にあたる時期だった。当時の盛り上がりは凄まじく、学生はモチロン、親世代までハマっていたので驚きだ。世間的な盛り上がりに合わせ、ミーハーな私も、例に漏れず便乗してハマっていた。斜に構えていた学生生活だった気がするが、やはり流行には抗えない。
学校のクラスの中では、ハマり具合に応じていくつか分類があり、「ガチオタ層」「ライト層」「名前だけ知っている層」くらいに分かれており、それぞれが牽制し合っていた。どうも、中学生というのは斜に構えていた時期なので、興味がないフリをして変に格好をつけたがるのである。私は、「ライト層」に扮した「ガチオタ層」であった。仲の良い友達はライト層に多かったので、ライト層に扮する必要があったのである。見た目は「ライト層」、頭脳は「ガチオタ層」と言うコナン君ばりの隠れ蓑の中生活したのである。
そんな中、「ガチオタ層」のN君が前田敦子のサイン企画に当選したと言う噂がクラスを席巻した。そして早速放課後、N君宅にサインを見に行くグループが立ち上がった。「ガチオタ層」だけでなく、「ライト層」と思われていた連中も前のめりになって家に行く約束を取り付けていた。もうこうなっては、「ライト層」「ガチオタ層」などと言っている場合ではない、と勇気を出して私も立候補し、N君宅に行ける事になった。ベルリンの壁が崩壊したレベルの大事件である。中学生の斜に構えた変なプライドが崩壊するほど、前田敦子は強かった。みんな、本物のサインが見られると、放課後が待ち遠しく、ソワソワしていた。
そして放課後、N君宅で本物のサインを目にした。感激である。正方形の色紙の中に、テレビやパソコンの中でしか見た事がなかった人のサインが、こなれた様子で黒い太ペンで書いてあった。自室にサインが置いてあることを妄想し、どうしてもサインが欲しくなった。
早速家に帰り、サインの入手方法をパソコンで調べてみた。するとどうやら、根気良く企画に応募し、当選を待つしか無いとの事だった。しかし、このAKB48全盛期時代、サインの当選倍率など想像を絶する程に高いはずだ。現実主義の私は、早々に企画応募以外の選択肢を考えた。「そうだ。持っている人のサインを売ってもらおう」とお金もないのに、お金で解決する事にしたのだ。
まずはヤフオクだ。しかし、調べてみるとヤフオクのサインは異常に高かった。物によっては10万円ほどするサインばかりである。中学生で月2,000円のお小遣いを貰っている私には到底手が出せそうにも無い。ローンで購入しても50ヶ月、約4年である。絶望の中、ちょっぴり泣きそうになっていると、ヤフー知恵袋内で、「板野友美のサインを貰った経験談」を自慢げに話している人を見つけた。藁にもすがる思いの私は、その人に質問をリクエストし、「サインを売って欲しい」と打診したのである。
すると、Yahooのアドレス宛に「30,000円なら売ります」と言う返答があった。先ほどまでヤフオクで10万円のサインを見ていた私は、金銭感覚が狂っていたため、「なんてお得なんだろう!」と即了承した。お小遣い15ヶ月分である。一瞬冷静に考えたが、N君の家で見た「本物の」サインの魅力には勝てなかった。親に土下座して頼み、勉強道具を買うという名目で15ヶ月分のお小遣いを前借りし、指定された口座に振り込んで貰った。
もう安心である。後はゆっくりと届くのを待つだけだ。
しかし、待てど暮らせどサインは届かなかった。1ヶ月ほど経っても音沙汰がなく、流石に不審に思った私は、もしかしたら騙されたのかもしれないと思うと怖くなり、「まだ届かないが、いつごろになりそうか?詐欺なら警察に相談する」と精一杯知恵を絞った脅迫めいた追いメールを送ってみた。すると、意外にも律儀に返信が返って来て「妹がサインにオレンジジュースをこぼしたから乾かしている。すぐ送るから警察はやめてくれ」との事だった。
今思えば1ヶ月もオレンジジュースを乾かしている状況を想像すると笑えてくるが、当時は「安心」の方が大きくて、特に不信感も抱かずに「お待ちしています!」と返信をしておいた。中学生なんて、このくらいのバカなのである。
そして、次の週、送り主不明で小さな段ボールが届いた。「板野友美のサインだ」と直感した私は、それを自室へ持っていって、開けた。
すると、中学生の私が見ても分かるくらい、どう見ても嘘っぱちのサインが書かれた色紙が入っていた。平仮名で「いたのともみ」と書かれていて、右下には律儀に「AKB」と書かれていた。本物のサインは見た事ないが、これが本物でない事だけは確信めいて理解した。本物が、わざわざAKBと記載するのだろうか?せめて漢字て書いて欲しかった。せめて嘘でも騙されていたかった。
絶望の中、パソコンを開いてその人にメールを送り、「本物ですか?」と連絡をした。すると今後は反対に「本物です。ケチをつけるなら警察に言います」みたいなことを言われた。完全にしてやられた。本物の証拠もなければ、偽物の証拠もない。これ以上は証明ができないのだ。なんて賢い詐欺師だ。しかも、親には「アイドルのサインを買おうとして騙された」など死んでもバレたくないから相談できない。
こうして私は、中学生にして大金の3万円を見事に騙し取られた。それ以降はどうすることも出来ず、「おそらく偽物」の板野友美のサインは無駄な買い物として自室の奥にしまっておいた。

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