「震災10年、静岡が学んだこと」。最終回は袋井市の命山です。震災後、県内各地で様々な津波対策が進められましたが、袋井市沿岸部の住民が選んだのは人工の高台「命山」でした。
3月6日の夜、袋井市の沿岸部で津波避難訓練が行われました。目指す避難場所は「命山」です。
<訓練の声>「足元暗いので気を付けてください」「5分」
コロナ禍のため今回は自治会役員だけの参加となりましたが、毎年行われている訓練です。この地域では南海トラフ巨大地震が発生後19分で最大10mの津波が海岸に到達するとされていて、この日は「18分以内の避難」を目標としました。
<浅羽南自治会連合会 鈴木敬徳会長>「ほんとに命山があることによって、安心が得られている。安心安全」
袋井市は東日本大震災を受け、2013年から2017年にかけて、沿岸部に「命山」を4つ整備しました。いずれも、海岸から約1kmの場所で、避難スペースの高さは海抜10mです。場所は住宅地に近い商業施設の跡地や農地を活用しました。震災当時、自治会のトップを務めていた安間登さんです。
<元浅羽南自治会連合会長 安間登さん>「ここにいる4000人強の命と財産を守るためにどうするんだ。一番最初は命を守るということ」
命山の整備を行政に要望したのは安間さんたち住民です。
<牧田博匡記者>「今こちらでは、市と住民が意見交換を行っているんですが、この参加人数の多さが問題意識の高さを物語っています」
震災後まもなく浅羽南地区では津波から命を守るプロジェクトを立ち上げ、行政を巻き込んで津波対策を議論しました。そこでモデルとなったのが江戸時代に高潮の避難場所としてつくられ、今も地域にその姿を残す「命山」でした。
<元浅羽南自治会連合会長 安間登さん>「江戸時代の命山というのがあって、それをヒントに今度は平成の命山!ということにしようと」
袋井市の防災担当者は避難施設として、命山の優れた点を次のように話します。
<袋井市危機管理課 永井宏昭課長>「命山はメンテナンスフリーではないが、未来永劫残っていく。タワーだといずれ建て直しの時期がくる関係で、安心安全が長持ちするのが命山」
命山を公園のように整備した点も大きな特徴です。住民が日ごろから親しむことで、避難場所としての意識も高まります。
<近所の人>「タワーよりも常に近寄りやすいというか憩いの場になりやすい。うちにいればすぐここへ来るんじゃないかと」「毎日夕方は犬を連れてぐるぐる回ってる。みんな何分くらい家からかかりますかという、班長さんが」
<児童>「私たちはこの1年間、総合(学習)で命を守るについて調べてきました」
命山は子どもたちの防災教育にも活用されています。沿岸部にある袋井市立浅羽南小学校では、毎年5年生が江戸時代と平成の命山を見学してから命を守る防災学習に取り組んでいます。3月9日には、グループごとにこれまで学んだことや命を守るための提案を発表しました。
<児童>「平成の命山は江戸時代(の命山)と違って高くて面積が広くて頑丈です」「大型リュックを背負って避難所まで行った結果、3分18秒でした。キャリーバックより速く走れることが分かりました」 命山に親しみをもってもらおうと、キャラクターまで作りました。その名も「イノッチ」です。
<児童>「(命山はどんな存在ですか?)浅羽南小の旗と同じで、袋井市のシンボルだと思います」「地震はいつ来るかわからないので、いつ来ても良いように防災バッグを備えたり、避難所に行くことも慣れておきたい」
発表を聞いた防災教育の専門家も、この地域における命山の重要性を訴えます。
<静岡大学教育学部 藤井基貴准教授>「防災教育にみんな夢中になってるなと思いました。(命山は)身近なものとして防災を推進していく上では象徴的な存在ですし、これを通して、これから何をすればよいかというのが見えてくると思う」
平成の命山は命を守らなければいけない災害が起こりうること、1人1人の心構えの大切さを伝え続けていきます。
#オレンジ6 3月12日放送
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