5月10日、宮城県が公表した新たな津波浸水想定では、震災後に沿岸自治体が整備してきた多くのかさ上げ地も浸水域に含まれました。かさ上げ地に災害公営住宅などを建設し現地再建が進められてきた名取市の閖上地区の住民からは不安の声が聞かれました。
記者リポート
「名取市閖上です。災害公営住宅が建てられたこちらの場所は、これまで津波の浸水区域に入っていませんでしたが、今回県が新たに示した想定では含まれることになります」
震災後、東日本大震災の津波を念頭に現地再建を進めてきた閖上地区。5月10日、県が示した新たな津波浸水想定では海抜5メートルまでかさ上げされ災害公営住宅などの建設が進む場所も浸水域に含まれました。今回の新たな想定に地元住民たちは不安を募らせています。
住民
「怖いね。津波経験しているから」
「また津波が来るのと思っちゃう。何もなくなってゼロから始まってなんとか生活できるようになったのに、また来るのか」
元々、復興にあたり住民間で「現地再建」と「内陸移転」で揺れた経緯を持つ閖上。市は意見を十分にまとめきれないまま現地再建を進めてきました。
住民
「震災で一回苦しんで、もう1回苦しむのは二重の苦しみ。やっぱり住人の言うことを聞いておけばよかったのでは」
格井直光さん
「あの時に十分話し合えれば、もっと違う形にできたかも…あとの祭り」
閖上の自宅を流され両親を亡くした格井直光さん(63)です。当初から東日本大震災の津波を念頭にした市の街づくりには懸念があったと言います。
格井直光さん
「それまでの防災対策というのは、チリ地震津波の想定が最高だという考え。それが間違いだったと思っていたので、今回も(東日本大震災と同じで)いいのかなと思っていた」
今後、沿岸の自治体は新たな想定のもとで避難計画などの見直しを求められることになります。格井さんは今度こそ住民たちの意見を反映しながら進めてほしいと考えています。
格井直光さん
「11年前は街づくりに対して話し合いをする場がなかった。今度こそ『どうしましょう』と、「皆さんと考えましょう」みたいな感じのほうがいいかなと」
今回の県の発表を市はどのように受け止めているのでしょうか。
名取市 山田司郎 市長
「復興のまちづくりを終えたばかりのタイミングで発表された内容が、想定を超える浸水深でショッキングな内容で大変驚いている。震災後にここは安全だと思って住んだ方々、進出した企業にそれをどのように説明するか難しい」
今回の浸水想定の策定に携わった東北大学の今村文彦教授です。
東北大学災害科学国際研究所 今村文彦 教授
「11年前の東日本大震災による大きな被害は繰り返してはならない。そのためにも常に新しい知見であったり、その状況をアップデートして対応する必要がある。今回の想定を受け止め、自分たちの命は自分たちで守る。そのための情報を提供したと理解してほしい」
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