3月29日の停戦交渉でウクライナ側は、新しい安全保障と引き替えに「中立化」に応じることを提案しました。一方のロシア側も首都キエフ周辺の軍事作戦を大幅に縮小すると述べ、双方が一定の譲歩を示した形ですが、本当に具体的な停戦へと結びつくのでしょうか。今後の予想される展開を詳しく解説します。
■どうなる停戦交渉?ウクライナは“中立化”応じる提案
ホラン千秋キャスター:
ロシアとウクライナの停戦交渉、今後事態はどう動くのでしょうか?外交安全保障政策に詳しい明海大学教授の小谷哲男さんにお話を伺います。
井上貴博キャスター:
最終的にはプーチン大統領がどう判断するかというところに委ねられますので、誰にもわからないことではあるんですが、「着々と進んでいる」ということが言えるのでしょうか?「中立化」がキーワードです。
▼ウクライナ側
新しい安全保障の確約と引き換えにして「NATO(北大西洋条約機構)などに加盟しない」「外国の軍基地を受け入れない」など、「中立化」に応じると提案。
▼ロシア側
「交渉は建設的だった。『中立化』、『安全保障の提供』など、条約の作成に向け実務的な段階に入った」
「条約の仮調印と同時に、プーチン大統領とゼレンスキー大統領による首脳会談を行う用意がある」
■これまでのロシアの主張を振り返る
当初はロシア側の主張として、「NATOへの非加盟(中立化)」「ウクライナの非軍事化」が、そこにプラスアルファしてロシアのラブロフ外相は10日、ウクライナとの外相会談後の会見で「この危機のためにウクライナがやるべきことは非軍事化・非ナチ化・中立化などだ」と発言。
非ナチ化というのは、ロシア独自の主張で何を指しているのかもよくわからない。こういったことが出てくると「溝がとんでもなく深い」と言われていました。その中で新たな話も出てきています。
「ウクライナはオーストリアやスウェーデンのように中立的な非武装国でありながらも 同時に自国の軍隊や海軍を持つ国家像を提案している」と、あくまでもロシア側(ロシア・メジンスキー大統領補佐官)が話しています。ロシアが「ウクライナはこう提案している」と発したのが16日です。
オーストリア・・・永世中立を宣言。NATO非加盟。
スウェーデン・・・戦争には参加せず「軍事非同盟」の外交政策をとる。NATO非加盟。
ロシア側(ロシア・ペスコフ大統領報道官)は「ある種の妥協点とみなすことができる」とメジンスキー大統領補佐官と同じ16日に発言。ここから2週間が経っている。
■“非ナチ化”“非武装化”についてロシアの考え見えず
ホランキャスター:
現段階でロシアはウクライナ側にどのような国家になってほしい、どのような国家にさせたいというような願望があるんでしょうか?
小谷哲男 明海大学教授 日本国際問題研究所・主任研究員:
元々、この戦争を始めた理由がNATOに入らないということ。それから非ナチ化。つまり今のゼレンスキー政権を変えて、新ロシア派の政権をつくるということだと思いますけれども、加えてウクライナを非武装化する。つまり軍隊を持たせないということだったわけです。
この3点についてロシアがどこまで折れてくるのか、プーチン大統領がどこまで妥協するのかというのは全く読めませんけれども、少なくとも中立化については、ウクライナの提案にロシアとしても一定の利益を見いだしてるということは言えると思います。
しかしながら、その残りの非ナチ化、非武装化についてロシアの考えというのは全く聞こえてきませんので、やはりこの辺りはまだまだ予断を許さないと思います。
ホランキャスター:
その中立化に関してなんですけれども、NATOなどには加盟しませんということをウクライナ提案しているんですけれども、代わりに「新しい安全保障の枠組みを作ってください」というふうに求めている。
これは、NATOには加盟しないけれども、第3国に安全を保障してくださいということは、枠組みこそ違えど同じことではないんでしょうか?
小谷教授:
ウクライナが求めている枠組みの中には、おそらくロシアも入るということになると思いますので、その点がNATOとは異なる点だと思います。
つまり、潜在的な敵国を枠組みに入れて置きながら、しかしその他の国々と連携してロシアからの攻撃を防ぐという考えになります。
ですので同盟であるNATOとは違うことをウクライナが提案してるわけですが、やはりここもロシアが受け入れるかは全く読めません。
■現在のウクライナの戦況は・・・
井上キャスター:
ロシア代表団によると、首都キーウと北部チェルニヒウ方面で“軍事行動を大幅に縮小する”としています。
「(東部ドンバス地方について)主な目的である解放に集中する」という話をロシアのショイグ国防相はしています。
この点について、アメリカ側がどう見立てを出しているのか。アメリカ国防総省のカービー報道官は「(軍事行動の縮小について)これは部隊の再配置で本当の撤退ではない」と、甘く見るべきではない、警戒を緩めるべきではないとしています。
アメリカ国防総省の高官によると「明らかにドンバス地方を優先し始めた。戦略的なゴールを精査している可能性がある」としています。
もう一つは日程です。
「ロシア軍の中には“5月9日までに戦争を終わらせるべきだ”というプロパガンダが広がっている」とウクライナメディアが報じています。
5月9日というのはロシアの対独戦勝記念日。中国、北朝鮮もそうですが、ロシアもこういった日程をとても重きを置く。成果をアピールしたいのではないかというところのようです。
ホランキャスター:
侵攻の始まりが、そもそもロシアの一方的な都合でということなんですけれども、全て最終的にロシアの都合でその侵攻の期間が決まってきたり、終わらせ方が決まってきたり。
ウクライナの皆さんのことを考えると本当に巻き込まれた形でいたたまれないなという気がしますよね。
秋元里奈さん(オンライン直売所「食べチョク」代表):
本当にそうですね。それこそキーウへの軍事縮小のニュースが出たときに、少し好転したのかなと思って安心して見てみたら、結局どうかはわからないですけれども、別の地域に行ってるだけとかっていう可能性もまだある。
やっぱり油断できない状況が改めて続いてるんだなっていうのを感じますね。
“5月9日”っていうところ、一つワードとして出てますけど、それもまた1か月先っていうこと、これまでの犠牲者の方を考えたら、ここからさらに犠牲者の方が広がっていくのかって、すごい心が痛いなという感じです。
■停戦に向けて前進は?専門家は「油断してはならない」
ホランキャスター:
小谷さん、この停戦交渉で出てきた今回の成果というのは前進というふうに見るべきなのか、いやそうではないというふうに見るべきなのか、どうお考えですか。
小谷教授:
この停戦交渉が行われている間に、キーウに関しては軍を退くような発言がロシアから出てきました。しかし、思い出していただきたいのがこの戦争が始まる直前、ロシアは演習が終わって部隊を撤退させると言いながら実は前線に送っていたわけですね。
今回もキーウから軍を退くと言いながらも、それを他の地域に向ける。そして、さらにその勢力の拡大を図っている可能性が十分あると思います。
この停戦交渉自体も時間稼ぎかもしれませんので、やはり油断してはならないと思います。
(30日17:14)
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