ロシアによるウクライナ侵攻から1か月。北方領土問題が暗礁に乗り上げる中、元島民らの思いを聞きました。
日本本土・最東端の北海道根室市。
花咲港には頻繁にロシア船が出入りし、街中にはロシア語表記の看板が目立ちます。
領土問題を抱えながらもロシアと交流を深めてきた証でもありますが、ウクライナ侵攻でいま住民感情は揺れています。
根室市民(80代):「昔の空襲のことを思い出す。早く終わってほしいです」
根室市民(20代):「北方領土が隣にあるので怖い。ひとごとではないと思います」
不安が募る中、市民に届いたあるロシア人からのメッセージ。
そこには複雑な思いがにじんでいました。
3月24日、卒業式が行われた北海道大学の前では、道内の大学などの教職員らによる抗議活動が行われました。
一方、根室沖では3月2日、ロシア機とみられるヘリコプターが領空侵犯したほか、ロシア側はその後、北方領土のビザなし交流の停止も表明。
領土返還は暗礁に乗り上げました。
根室市でビザなし交流を支援してきた本田幹子さん(64)は…。
ビザなしサポーターズたんぽぽ 代表 本田 幹子さん:「(ビザなし交流停止は)予想はしていましたけど、強烈でした。もう再開することはないのかなとすごく不安になりました」
本田さんは元島民の2世。
ビザなし交流でロシア人と親交を深めるにつれ、領土問題解決に向けてはお互いの信頼が大切だと実感してきた一人です。
ウクライナ侵攻が続く中で、20年以上交流があるロシア人の男性からのメッセージに本田さんは…。
(メッセージの内容):「どんな形であれ戦争を知っています。どんなに良い計画を立てても、それは悪いことです」
ビザなしサポーターズたんぽぽ 代表 本田 幹子さん:「『戦争はよくないこと』だと同じように思っていて安心しました。きついですけど、実際に島の人たちと直接交流したい。島の人たちも望んでいると思うけどな」
苦悩する人はここにも…。
77年前、生まれ故郷の歯舞群島勇留島(ゆりとう)を追われた角鹿 泰司(84)さんです。
8歳のころ、ソ連兵が土足で自宅に上がりこんできた恐ろしさと、今が重なるといいます。
歯舞群島 勇留島出身 角鹿 泰司さん:「ウクライナの子どもたちの姿を見ていると、島を追われたとき以上の、ものすごい恐ろしさが伝わってくる」
根室市の納沙布岬からは、生まれ故郷が見えます。
歯舞群島 勇留島出身 角鹿 泰司さん:「あれが勇留島。本当に近い。こんな近いところがロシアに占領されている。返還運動を私たちは諦めない。自由がなくなったり、平和をおろそかにしてはいけない」
現在84歳の角鹿さん。
元島民の平均年齢も86歳と高齢化が進む中、角鹿さんは島での経験を若い世代に伝えています。
孫の志歩さん(21)と柚衣さん(19)は、これまで2度北方領土を訪れ、角鹿さんが住んでいた土地などをめぐりました。
歯舞群島 勇留島出身 角鹿 泰司さん:「今度、島に行く時は、おじいちゃんいなくてもわかるでしょ」
角鹿さんの孫 妙護寺 志歩さん:「残っているところは少なかったけど、おじいちゃんがここまで覚えているのはすごいなと思った」
角鹿さんは、孫たちに元島民の思いも引き継いでほしいと感じています。
歯舞群島(勇留島)出身 角鹿 泰司さん(84):「今もうすでに命が尽きる時点にきているけど、北方領土返還を絶対してもらわないといけない強い気持ちがある」
角鹿さんの孫 妙護寺 柚衣さん:「昔起きていたことや、現状が知られていないままだから、自分も伝えていかないといけないと感じています」
揺れる元島民らと家族、そして交流があったロシア人。
ウクライナ侵攻は、積み上げてきたものにも暗い影を落としています。
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