2026年4月5日、日テレ・東京ヴェルディベレーザの選手は涙を流しました。腰砕けとなり立っていられない選手もいました。試合終了のホイッスルは、日テレ・東京ヴェルディベレーザが2025/26SOMPO WEリーグの優勝争いから脱落したことを伝えます。ちふれASエルフェン埼玉が1ー0で勝利。勝因には緻密に計算された戦術と、指揮官が胸に秘めたかつての宿敵への闘争心がありました。

青いファン・サポーターの後押しを受けて勝利したちふれASエルフェン埼玉

優勝争いの重圧か「いつも通り」を失った緑の女王

日テレ・東京ヴェルディベレーザにとって、この一戦は単なるリーグ戦の1試合ではありませんでした。

AWCL直後の焦燥感

2025/26 SOMPO WEリーグの優勝戦線に踏みとどまるためには、勝ち点3が絶対条件。しかし、チームの足取りはどこか重く見えました。アジアの頂点を目指す戦いを終えたばかりの彼女たちは、無意識のうちにナーバスな状態に陥っていたのかもしれません。

絶好の観戦日和となった

28分の判定に露呈した心理的な揺らぎ

象徴的だったのは28分のシーンです。隅田凜選手が警告を受けました。スライディングのタイミングは明らかに遅れており、たとえボールに触れていたとしても、相手を倒した以上はファウルと判定されるのが妥当なプレーでした。

主審はSPA(大きなチャンスとなる攻撃の阻止)として警告を提示しましたが、これに対し多くの選手が主審・副審へ詰め寄り不満を露わにしました。映像で冷静に振り返れば、判定自体に大きな瑕疵はなかったと気がつくはずです。しかし、試合中は判定を受け入れて素早くリスタートに移行できなかったその姿に、追い詰められた心理状態が透けて見えました。

樋口靖洋監督が求めた「コンパクト」と秘めたるライバル心

ちふれASエルフェン埼玉は4−4−2のミドルブロックを採用し日テレ・東京ヴェルディベレーザの攻撃サッカーに対抗しました。

あと10メートルの勇気が生んだ完封劇

日テレ・東京ヴェルディベレーザを封じるため、樋口靖洋監督が選手たちに徹底させたキーワードは「コンパクト」でした。

「『コンパクト』にしてハーフスペースを使わせないためには、ラインを上げることが不可欠でした。選手たちには、ボールが一つ前に繋がった瞬間、必ずラインを押し上げてくれと指示していました」

ハーフタイムに、さらに強気な姿勢を求めました。

「あと10メートル、ブロックを上げよう」

そして「良いゲームで終わりたくない」と伝えたと言います。選手たちは最後までディフェンスラインを下げることはありませんでした。

樋口靖洋監督

ミーティングで打ち明けた「日産自動車サッカー部のプライド」

樋口監督は横浜F・マリノスの前身である日産自動車サッカー部の出身。かつて日本サッカー界の頂点を競い合った「日産対読売(現・東京ヴェルディ)」のライバル意識は、今も監督の血の中に流れていました。

「個人的なことで申し訳ないけれど、俺は緑(読売)には負けたくないんだ」

試合前のミーティングの最後に添えられたこの一言。指揮官の飾らない本音が、樋口監督の「どうしても勝ちたい」という泥臭い感情を伝えました。そして、試合後の樋口監督は、バスに乗り込むまで喜びを隠しきれない緩んだ表情でした

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大卒ルーキー生田七彩選手の冷静沈着な「一撃」

62分に均衡を破ったのは、今春に早稲田大学を卒業したばかりの新鋭・生田七彩選手でした。

裏への推進力と非凡な駆け引き

生田選手の持ち味は、一瞬の隙を突いてディフェンスラインの裏へ抜け出すスピードです。虎視眈々とチャンスをうかがっていました。

「攻められている時間帯でも、しっかりと裏抜けをチャレンジしようと思っていました」

生田選手は、絶妙なタイミングで自分にパスを呼び込むと、そのままゴールへ突進しました。

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技ありのフィニッシュ、右上にねじ込んだコントロールショット

ペナルティエリア内に侵入した際、生田七彩選手は驚くべき冷静さを見せました。真っ直ぐ突っ込むのではなく、わずかに右へボールを持ち出すことで、ベレーザの守護神・野田にな選手の重心を動かし、前へおびき出したのです。

「1回タッチが多いかなと思いましたが、コースはしっかり見えていました」

本人は「流し込んだ」と謙遜気味に語りましたが、実際のシュートは繊細なタッチでボールを浮かせ、美しい弧を描いてゴール右上の隅へ。技術と度胸が凝縮された、まさに値千金の決勝弾となりました。

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それぞれの次なる戦いへ

失点後、日テレ・東京ヴェルディベレーザの村松智子選手は、リスクを承知で極端に前がかりな布陣を敷きました。カウンター攻撃を浴びる危険性は百も承知。それでも、勝ち点をもぎ取るために守備のバランスを度外視した猛攻を仕掛けます。

「2失点目のことは考えず、まず1点を取って勢いに乗ることが大事だった」

村松選手は語ります。前半からの重苦しい空気を打破しようとする捨て身のプレーでしたが、最後までちふれASエルフェン埼玉の組織的な守備を崩し切ることはできませんでした。

村松智子選手

一方、殊勲の勝利を挙げたエルフェンの選手たちに慢心はありませんでした。平尾愛穂選手は勝利を「最高でした」と喜びつつも、すぐに表情を引き締めました。

「失点しなかったから良かった、という試合。まだ高めていける部分はある」

「良いゲーム」で満足せず、結果をもぎ取ったちふれASエルフェン埼玉の執念。そして、痛恨の敗戦を喫した日テレ・東京ヴェルディベレーザの悔しさが強く印象に残る試合後でした。

平尾愛穂選手(右から2番目)

好調とは程遠いが出場した眞城美春選手

最後に、眞城美春選手の起用について触れておきます。眞城選手はUー20日本女子代表を辞退し国内に留まっています。72分から交代出場しました。楠瀬監督は「選ばれたら、日本のために、自分のために、チームのためにしっかりと頑張ってこいと送り出しています」と考えを示した上で起用理由を説明しました。

「メディカルを近くに置いて治療しながら出場時間を制限して使いながら治してもらおうと思っています」

眞城美春選手

筆者がAWCL(AFC女子チャンピオンズリーグ2025/26)準々決勝の直前にトレーニング取材をしたときは、ベンチ入りすら難しいのではないかという状態に感じました。この日は出場したものの、眞城選手らしさを披露することはありませんでした。

シーズン終盤に入り、あらゆるチームの多くの選手が怪我やコンディション調整に苦しんでいます。この状況でも眞城選手を起用せざるを得ない日テレ・東京ヴェルディベレーザも例外ではなく、その現実を感じる交代出場でした。

(取材:2026年4月5日 石井和裕)

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