スパイシリーズ:世界を覆う「静かな戦争」 第4回 

福山 隆

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2026.4.3(金)

米ハーバード大学(Pixabayからの画像)

 私は、ハーバード大学で上級客員研究員として滞在した2年間で、勉強会の名を借りた、実に巧妙なヒューミント(スパイや外交官などが人的接触を通して情報を収集すること)活動の実態を目の当たりにした。

 ハーバード大学ケネディ・スクールなどに留学している日本のキャリア官僚たちが、10年後の日本の各分野の政策をテーマに、毎月1回議論を重ね、1年後に英文リポートとして提出する。

 その光景は、米国が官学一体となって同盟国・日本の将来の国策に相当するトップシークレット級の情報を、自然な形式を装いながら、しかし確実に収集しているという「強かな現実」を鮮やかに示していた。

 世界的に情報戦が激化する中、日本は諜報・防諜の双方で脆弱なまま取り残されている。

 その隙を突くように、同盟国である米国でさえ、将来の国策に直結する最重要インテリジェンスを「善意」の衣をまとって公然と吸い上げている――。

 その構造的危険性を、私はハーバード大学近くの世界的に高名なA教授宅で目撃した。

 勉強会が開かれていたのは同教授の1階の居間であり、私が2年間身を置いていたのは、その3階の屋根裏部屋だった。

教授Aの家で見た米国の官学一体という現実

 2005年から2007年にかけて、私はハーバード大学の高名なA教授の自宅に寄宿していた。

 教授Aの家は、イングランド風の木造建築で、私たち夫婦が暮らしていたのは3階の屋根裏部屋だった。

 天窓から差し込む光、雨の日に響く柔らかな音、夜空に浮かぶ星々・・・。日本では味わえない静謐な時間が、そこには流れていた。

 教授Aは、日本研究と中国研究の第一人者であり、米国の行政やインテリジェンスにも深く関わった人物として知られていた。

 70代後半でありながら週2回、中国人女性留学生から中国語の個人レッスンを受けるほどの向学心を持ち、趣味は読書と研究のみ。

 夫人が「主人は研究しか趣味がないの」と苦笑するほど、まさに学問一筋の生活だった。

 米国では、学者が行政に入り、行政経験を研究に還元する「官学一体」が当たり前である。日本のように「官」と「学」が分断されている構造とは対照的だ。

 米国は、学者を国家の知的資産として政策形成に組み込み、学問と行政を往復させる「官学循環」を制度として確立している。

 この構造こそが米国の強靭さの源泉であり、同時にインテリジェンス機能を支える土台でもある。

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