【函館発・安木レポート】タラが消えつつあるバレンツ海、人間が改変してしまった自然環境の変化に適応すべきは人間

安木 新一郎

安木 新一郎
函館大学商学部教授/択捉島水産会理事

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2026.3.22(日)

ノルウェーでは「スターリンのカニ」と呼ばれるタラバガニ(写真:Faustostock/イメージマート)

目次

スターリンからの贈り物になったタラバガニ

ウチダザリガニを産業化すべき

(安木 新一郎:函館大学教授)

 2022年2月から始まったウクライナ戦争も5年目に入った。北海道の港には、かわらずロシアの船がウニやナマコなどを運んできている。道内の水産加工業にとって、ロシアからの輸入品は必要不可欠だ。

 同じくロシア国境にあるのがノルウェー北部の漁村だ。ロシア国境から100キロ離れたボツフィヨール村は、戦争の影響で深刻な経済状況にある。

 根室などと同じように、ボツフィヨールも長年、旧ソ連・ロシアと協力関係にあった。だが、2022年以降、ノルウェー政府はロシア船の入港を制限し始め、ロシア船の修理などができなくなった。2025年には、ロシアのムルマン・シーフード社とノレボ社に事実上の制裁を科している。

 ロシア船は北極のバレンツ海で獲れたタラをボツフィヨールに運んでおり、港の収入の半分はロシア船から得られていた。しかも、世界的な「すりみ」消費増の中、ロシア船の増加を想定して、ボツフィヨールは2000万ユーロを投じてバースも拡張している。だが、もはや投資資金の回収の見込みはなく、莫大な漁港整備の元利払いが、村だけでなくフィンマルク県にも重くのしかかる。

 もっとも、仮にウクライナ戦争がなかったとしてもバレンツ海におけるタラの減少は深刻で、ロシア船とタラに依存する構造を改めなかったのはノルウェーの失敗だったと言える。実際、2025年にノルウェー・ロシア漁業委員会は、バレンツ海のタラ漁獲割当量を1991年以来最低水準まで引き下げた。

 実は、タラのすむところにはタラバガニがいる。厳密にはタラバガニはヤドカリの仲間だが、水産や貿易統計ではカニの一種として扱われる。日本周辺にはタラバガニの他、ハナサキガニやアブラガニなど数種類いるが、もともとバレンツ海にタラバガニはいなかった。

 ロシア語でタラバガニは「カムチャツカのカニ」というが、ノルウェーでは「スターリンのカニ」と俗称される。スターリンが生きたカニをバレンツ海に放流するよう命じたという俗説があるためだ。スターリンと言えば、ドイツ人、朝鮮人、クリミア・タタール人、チェチェン人など、多くの民族をまるごと強制移住させたことで知られているが、タラバガニもその被害にあったというわけだ。

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