ヨーロッパ随一の強国は、ひとりの男によって作り上げられた。その名は神聖ローマ帝国初代皇帝・オットー1世。欧州を席巻した苛烈な王の生涯は、戦いの軌跡だった。身内からの反乱にイタリア遠征、そして強敵ハンガリーとの戦争。彼はいかにして数多の勢力を下し、その地位を固めていったのか。
オットー1世の生涯を辿れば、中世ヨーロッパが見えてくる。ドイツの源流・神聖ローマ帝国の歴史を綴った『ドイツ誕生 神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世』から一部抜粋・再編集してお届けする。
『ドイツ誕生 神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世』連載第7回

『裁判が機能しない中世ヨーロッパの社会秩序を維持したのは「復讐」だった…かつて「ドイツ」で繰り広げられた名家同士の“血みどろ”な私闘』より続く。
リウドルフィングという家名
リウドルフィング家の祖は貴顕公の父でハインリヒ1世の祖父に当たるリウドルフ伯である。リウドルフィングという家名は「リウドルフの子孫(・・・イング)」という意味からきている。家祖はリウドルフであり、それ以前は史料的に遡ることができない。つまり、リウドルフィング家は新興貴族であったということだ。ちなみにカロリング家の前のフランク王国の王家であったメロヴィング家の家名は伝説的始祖メロヴェを起源としている。となればカロリング家も「カール大帝の子孫」を意味していることになる。
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いずれにせよ、これらの家名は後世による後付けである。ヨーロッパの王侯が自らの家門名を名乗るようになったのは12〜13世紀になってからの話である。
後世の史家はリウドルフ伯を「東ザクセン公」、あるいは「ザクセン公」と表示するが、カロリング朝の時代、ザクセンは公爵ではなく伯爵によって統治されていた。強大な地方権力が辺境の地ザクセンに生まれるのを嫌ってのことである。

「公爵」「伯爵」「男爵」の違い
それでは公爵と伯爵とはどう違うのか?
公・侯・伯・子・男と言われるヨーロッパの爵位はその起源がさまざまである。王国や時代によっても違いがある。以下、主としてフランク王国のそれに沿ってかいつまんで説明してみよう。
まず公爵だが、古代ローマ帝国の軍団長が起源と言われている。公爵をドイツ語でヘルツォークと言うが、このドイツ語は軍隊を意味する「へール」と「(引っ張って)移動させる」という動詞の「ツィーエン」から出来上がっている。まさしく公爵とは地方部族の兵を率いる武人族長であった。それが時の王権に臣従し、改めて公爵という官職を得たのである。それだけに公爵は王権には常に面従腹背であった。それどころか公爵という官職を一門の世襲として、隙あらば王権からの自立を狙っていた。
王権にとって剣呑な存在である公爵層をカール大帝は圧倒的な軍事力でねじ伏せ、多くの公爵領を細分化させた。そしてそこに軍事と民政を司る官職として伯爵を置いたのである。こうして大帝のフランク大帝国には500の伯爵領が生まれたのだ。しかし任命された各伯爵たちは大帝の亡き後、伯爵位を世襲化することで土着勢力となり、なかには複数の伯爵領を統合し、新たに広大な公爵領を形成するものまで現れたのである。
これら数多の伯爵領のうち辺境に置かれたのが辺境伯領である。辺境であるがゆえに異民族と直接対峙する。辺境伯は国境を警備するという重要な使命を帯びているのだ。当然、並の伯爵より位は一段高くなる。国によってはこれら辺境伯を侯爵と呼んでいる。
次に子爵だがこれは副伯爵である。イタリア語でヴィスコンティである。そしてこの官職名をそのまま家名としたのが、イタリア・ルネッサンス期にミラノ公に上り詰めた後、傭兵隊長スフォルツァ(菊池良生『傭兵の2000年史』参照)に公位を追われた、かのヴィスコンティ家である。不朽の名画『ベニスに死す』で知られる映画監督ルキノ・ヴィスコンティはこの一門の末裔だと言われている。
爵位の最下層である男爵は一人前の男、つまり自由民といった意味らしい。
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現在のドイツの源流になった神聖ローマ帝国。その初代皇帝・オットー1世の人生は戦いにまみれたものだった。身内からの反乱にイタリア遠征、そして強敵ハンガリーとの戦争。オットー1世の生涯を辿ることで、中世ヨーロッパが見えてくる。
さらに現在マガジンポケットで連載中の漫画『ハプスブルク家の華麗なる受難』(原作:あずま零、漫画:稲谷、監修:菊池良生)では、13世紀以降の神聖ローマ帝国の歴史をハプスブルク家を主人公に描いています。軽快なコメディで、大人なら知っておきたい歴史の教養を学べル本作もぜひあわせてご覧ください。
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