道央自動車道を一路東へ

除雪された道央自動車道を一路旭川方面へ。道路が白っぽいのは凍結防止の塩化カルシウム(塩カル)が散布されているため

札幌発の宗谷バス都市間バスは稚内行きが6本、枝幸行きが1本運行されている。

札幌-枝幸間を5時間半で結ぶ宗谷バスの都市間バス「えさし号」は、美深、音威子府、歌登経由で総走行距離は298km。3列リクライニングシート、USB電源、車内WiFi完備。1日1往復とはいえ、国鉄時代には札幌からの直通列車がなかっただけに枝幸町民にとってはたのもしい存在だ。

かつて、札幌から北見枝幸へ向かうには、札幌を11時に発車する急行「天北」を利用し、浜頓別(はまとんべつ)で乗りかえる必要があった。浜頓別回りとはいえ枝幸までの所要時間は7時間を要していたから、都市間バス「えさし号」の快速ぶりが分かる。

午前11時30分に大通バスセンターを発車した「えさし号」は粉雪が舞う札幌を出発し、豊平川に沿って東進、札幌インターチェンジから道央自動車道に乗る。この日は危惧していた市内の渋滞もなかったが、札幌の恒常的な問題として、バスの発着する駅周辺や大通りと道央道のインターチェンジをつなぐ市内高速がなく、市内通過に時間がかかる点があげられる。市内に大雪が降れば国道の車線が狭まって大渋滞となるのである。

札幌IC手前の交差点は路面が荒れていて、補修工事の後にできたと思われる段差があった。突き上げショックを覚悟して身構えるがほとんど衝撃もなく乗り越える。エアサスペンションの効果もあるにせよ、段差の手前で減速していったん前輪に荷重をかけ、すぐに加速して前輪の荷重を心持ち抜くことで衝撃を和らげる運転テクニックである。枝幸行き「えさし号」は札幌ICを入ってすぐ、札幌行き「えさし号」とすれ違う。枝幸ターミナルを早朝7時に発車し札幌に12時25分に着く上り便だ。

「都市間バスは営業所を出ると無線が入らないのですが、バス同士は20~30kmくらいまで無線が到達するのでその日の情報交換をします。行く手の天候や高速道路の工事や渋滞を聞くわけで、周波数の関係で他社のバスの無線も入りますよ」と語るのは今日の「えさし号」の運転手・今井一郎氏である。

宗谷バスの都市間バスにはインターネット回線を使ったデジタルタコグラフが装備されているので、営業所と本社は常にバスの現在位置が把握している。しかし、事故や悪天候などで高速が通行止めになると、迂回路の選択は現場にいる運転手に委ねられることもあるたとえば、道央自動車道が江別や岩見沢で通行止めになったときは混雑する国道12号線を避け、流れの早さからプロドライバーたちが好む国道275号線に迂回するといった具合だ。

先を急ぐ他社都市間バスを先行させる仁義

JR特急と到達時間を競う網走バスターミナル行きの「ドリーミントオホーツク号」を先行させる。

稚内発札幌駅行きの「わっかない号」とすれ違う。前方には大型トレーラー

「えさし号」は進路を東に取り、小雪のちらつく道央自動車道を快調に飛ばしていく。制限速度100km/hに対して85~90km/hの快適な巡行だ。大通りバスセンターを出て30分で野幌パーキングエリアを通過し千歳川を渡る。気温氷点下7℃、風速8m。いつの間にか速度は100km/hに上がっていて「横風注意」の点滅信号が後方へ飛んで行く。ほぼ冠雪した路面が黄色っぽく見えるのは融雪剤のためだ。岩見沢のあたりは雪が深い。石狩川が荒れ狂って作った平地は遮るものがなく、北側の樺戸山地と南側の三笠山地にはさまれているから、石狩湾から進入する湿った北西の風が流れ込んで大雪を降らせる。年によって、季節風が真北から入ってくると札幌が大雪、西向きに入ってくると岩見沢、江別が大雪となる。

 岩見沢インターチェンジを過ぎたあたりで、高速道路上を後方から接近してきた道北バスを先行させる。札幌駅前バスターミナルを「えさし号」と同時刻に発車した「高速あさひかわ号」だ。札幌-旭川間を結ぶ都市間バスは26往復。そのうち16本を中央バス、6本を道北バス、4本をJR北海道バスが運行しているが、JRの特急「ライラック」より1時間近く所要時間がかさむため、定時を守るため先を急ぐ必要がある。札幌-旭川間の料金は2,500円、JR特急は4,690円だ。されば、ダイヤに余裕のある長距離ランナーの「えさし号」は、JR相手に熾烈なスピード競争を挑んでいる「あさひかわ号」に道を譲るのが仁義というものだ。

全長1000mの美唄トンネルを抜けると長い下り坂にかかる。夏場より車間距離を長く取れとの指示「冬道車間200m」の標識の先で工事規制が始まった。一車線をつぶしての舗装補修工事によって制限速度は50km/hとなった。速度を落とした「えさし号」の横をゆっくりと北海道北見バスが追い越していく。札幌中央バスターミナルを11時30分に発車した網走バスターミナル行きの「ドリーミントオホーツク号」である。全行程6時間半(夏期は6時間)の長距離バスは留辺蘂、北見、美幌、女満別に停まり、同じ区間を走るJRの特急「オホーツク」より1時間ほど余計にかかる。高速道路(旭川紋別道)が遠軽までしか開通していない現状を考えれば、「ドリーミントオホーツク号」の時間のきつさは容易に想像できる。みるみる視界から去っていく真紅のバスの運転台では、ドライバーが眦を決して、運行ダイヤを守ろうと奮闘しているはずだ。

12時48分、砂川サービスエリアに入りおよそ20分の停車。眠りこけている何人かを除いて乗客がバスを降り、つかのまのリラックスタイムを楽しんでいる。車内販売もないJR特急に対して、都市間バスの20分停車は旅の余韻を思いださせてくれる。

「ここから先、旭川への登りが長くてきついのです。道北の各地に燃料を運ぶタンクローリーに道をふさがれて往生することがありますよ。片側2車線ですが雪が多いと交通量が多い走行車線は滑りやすいので、トレーラーは追越し車線をゆっくり登ることがありますからね」(今井氏)。

函館本線に沿って東進してきた道央自動車道は旭川から進路を北に取り、宗谷本線に沿って北上していく。比布ジャンクションで旭川紋別自動車道を分岐。宗谷本線の難所だった塩狩峠も高速道にはなだらかな丘陵越えに過ぎず、長い坂を下って14時5分に和寒を通過した。宗谷区間に入ってさすがに雪は深まり、凍結防止の融雪剤を巻き上げながらバスは疾駆していく。

さいはての交通ジャンクション音威子府へ

音威子府駅に到着した「えさし号」。JR宗谷本線との乗換え客は多くないが、交通ターミナルとしての役目は大きい。

名寄から凍てつく国道40号線を北上する。

音威子府からの乗換え案内。廃止された天北線に沿って鬼志別まで走る都市間バスとの接続点だ。

函館本線に沿って東進してきた道央自動車道は旭川から進路を北に取り、宗谷本線に沿って北上していく。比布ジャンクションで旭川紋別自動車道を分岐。宗谷本線の難所だった塩狩峠も高速道にはなだらかな丘陵越えに過ぎず、長い坂を下って14時5分に和寒を通過した。宗谷区間に入ってさすがに雪は深まり、凍結防止の融雪剤を巻き上げながらバスは疾駆していく。

美深インターチェンジを出て市街に入る。15時10分、札幌市内を出て最初の降車地で5人がバスを降りる。言葉を交わした婦人客は家族の出迎えを受け、大通バスセンターでバスの乗車口を教えてくれた男性客は足早に通りを歩き始めた。いつの間にか雪は密度を増してきて、窓の外にまぶしいほどの光があふれ、除雪車を先頭に雪捨てダンプの列が忙しげに追い越して行った。ちなみに、人口3700人余(令和6年3月)の美深町は稲作の北限地である。

15時45分、バスは音威子府駅に到着、25分の停車となる。本来、「音威子府駅」と表示されるべき駅の看板は「音威子府交通ターミナル」とある。音威子府駅には1日8本の列車が発着し、そのうち3本は特急列車だ。札幌に直通する特急は「宗谷」だけとはいえ、オホーツク海沿いと札幌や旭川を結ぶ都市間バス「えさし号」、「天北号」も発着している。音威子府村の人口は全盛期の4,000人超(昭和25年)から632人(令和6年2月)まで減っているが、かつて宗谷本線と天北線が分岐していた時代と同様、道北の交通拠点であり続けようとする意志が「音威子府交通ターミナル」の看板に込められているのだろう。

音威子府から小頓別までは廃線となった天北線の跡に沿って走る。
人家もない、対向車もやってこない凍てついた国道を「えさし号」は進んでいく。天北川に沿った片側二車線は右へ左へゆるやかなカーブを切り、天北峠の頂きを目指して徐々に高度を上げていく。峠の頂上を過ぎ、ヘッドライトに照らし出される小頓別への下り道は部分的に凍結していて、7人分の人生を引き受けるドライバーは慎重かつ大胆に峠を下りていく。

道道12号線に入ると毛登別峠へ向けて、くねくねと曲がる登り坂がはじまる。道路は雪に覆われているが、圧雪路と雪の下が凍っているアイスバーンの見分けはむずかしく、そこは経験がものをいう領域である。

「重量バランスの関係なのか都市間バスはそれほど滑らないのです。それでも路面のコンディションはさまざまで、凍っているかどうかはタイヤ音がひとつの判断材料になります。凍っていないときはタイヤが水をはじく音が聞こえてきますが凍ると音がしなくなる。摩擦係数が落ちて水を引っ張らなくなるからでしょうね。だからタイヤ音がしなくなったら減速します。幹線道路は長距離トラックが車体に付着した融雪剤を落としていくのでシャーベット状になることが多く、市街地は建物の陰になったところが凍結しているので、路面コンディションが目まぐるしく変化するから注意が必要です。途中のバスターミナルに入る道は地元の人しか通らないのでカチカチに凍っていることがありますね。冬道はいろいろなコンディションがありますから、走ってみて自分なりの経験を積むしかないのですが、運転手同士のコミュニケーションでそれが伝承されていけばいいと思います」(今井氏)。

幾多の開拓者たちの希望と収穫を運んだ軌道の跡を「えさし号」は走る。吹雪に閉ざされた毛登別峠を越え、当てどのない闇にヘッドライトの光芒を鋭く投げかける。ポツリと人家の灯が見えてくると前方に歌登の市街地が現れる。降車客は3人。人通りのない街路の向こうに佇む歌登バスターミナルに停車し、お客さんが無事にバスを降りたことを確認して発車、「えさし号」はいよいよ最終行程に入っていく。

取材協力 : 宗谷バス株式会社

文/写真・椎橋俊之

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椎橋俊之

筑摩選書

鉄道廃線を引き継いだ最果ての地の乗合バス
その苦闘の記録

鉄道廃線を引き継いだ北海道の路線バスは、過疎化や少子高齢化により危機に瀕している。自然環境もきびしく、冬の日本海沿いでの運行は突風、ホワイトアウト、猛吹雪で困難を極めるが、運転手は高度な運転技術と旺盛な使命感で日々闘っている。バス輸送の現場はいかなる問題に直面しているのか。運行管理者、運転手の生の声を徹底取材。DMV、BRTの現在や、イギリスのバス復権の動きも調査し、バス2024年問題や運転手不足への対策に向けた提言も行なう。

連載 真冬のさいはてを走る北海道路線バス

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