連載【教養としてのポップミュージック】vol.17 / インド経由で世界征服!BABYMETALとブラッディウッドのコラボから時代を読んでみよう

2024年12月、インドのヘヴィメタルバンド、ブラッディウッドは、我らがBABYMETALをフィーチャーしたシングル「Bekhauf」をリリースした。2016年にインドの首都ニューデリーで結成されたこのバンド、世界的にはまだまだ無名だが、既に『FUJI ROCK FESTIVAL ’22』に出演し、来日ツアーも行っているので日本のメタルファンには知られた存在なのかもしれない。

そんな中、今度はBABYMETALがブラッディウッドをフィーチャーしたシングル「Kon!Kon!(feat. Bloodywood)」を2025年7月にリリース。この曲は、日本人アーティストとして史上初めて全米アルバムチャート(Billboard 200)でTOP10入りした、彼女たちの4枚目のアルバム『METAL FORTH』にも収録された。

このように、BABYMETALがインドのバンドと組むのは、2013年に彼女たちがメジャーデビューして以来の目標である “世界征服” を実現する上で完全に理に適っている。何故かというと、インドは世界的に見て経済規模が大きく、急速な成長を遂げている国であり、そんなインド市場にリーチする上で、このコラボレーションが重要な足掛かりになり得るからである。

世界最大の優秀人材の宝庫インド
実際、IMF(国際通貨基金)が2025年10月に公表した『World Economic Outlook』(世界経済見通し)によると、ドル建てで見たインドの名目GDPは2026年に日本を抜いて世界第4位になるという。更に、2030年にはインドはドイツを抜いて第3位へと浮上する見通しだ。GDPとはGross Domestic Product(国内総生産)の略。一定期間内に国内で生み出されたモノやサービスの付加価値の総額であり、国の経済力を総合的に示している。

ちなみに、日本の名目GDPは、1968年から2009年まで米国に次ぐ世界第2位の座を維持していたが、2010年に中国に抜かれて3位に後退、更に2023年にはドイツに抜かれ4位に転落した。ついでに言うと、外交の単位としての国家ではないものの、2025年にはカリフォルニアにも抜かれている。

話をインドに戻すと、インド人とのコラボレーションには、もう1つの大きなメリットがある。それは、優れた人材のネットワークに入り込む糸口になりうる点だ。実際、インドは世界最大の優秀人材の宝庫といわれている。人口の母数が多いので当然だと思われるかもしれないが、それでもインドが世界をリードする人材を山のように生み出しているのは事実である。例えば、経済界でいうと、2025年3月末時点で世界の時価総額TOP100企業の経営者の中には――

▶ サティア・ナデラ(マイクロソフト CEO)
▶ スンダー・ピチャイ(グーグル / アルファベットCEO)
▶ アービンド・クリシュナ(IBM CEO)
▶ ヴァサント・ナラシンハン(ノバルティス CEO)
▶ シャンタヌ・ナラヤン(アドビ CEO)

―― といった多くのインド出身者が含まれていた。また、企業経営者以外では、アジェイ・バンガ(世界銀行グループ総裁)もインド出身だ。政治の世界でも、リシ・スナク(前英国首相)やカマラ・ハリス(前米国副大統領)がインド系として知られているし、2026年1月に就任したばかりのゾーラン・マムダニ(ニューヨーク市長)も “イスラム教徒でインド系移民” として話題になっている。

そもそも、インドでは国の競争力を高めるために、IT人材やプロフェッショナルサービス人材など、知的労働者を輩出するための教育を取り入れている。その結果、IT人材や医薬品研究人材を世界に供給したり、医師や弁護士などの専門職を欧米諸国に派遣したりしている。そう、こうした中から政治的指導者や多国籍企業の経営トップとなる人材が数多く生み出されるという訳だ。

22の公用語を有する多言語社会
そして、インドにはもう1つの得意分野がある。エンターテインメントだ。特に映画が盛んなのは、皆さんもご存じだろう。WIPO(世界知的所有権機関)のデータによると、2023年の1年間にインドで制作された映画は2,562本で断トツ世界一である。2位は中国で792本、3位は日本で676本、4位は米国で510本であった。これだけ多くの映画がインドで制作されるのは、インドが22の公用語を有する多言語社会であることが背景にある。

例えば、“ボリウッド” という言葉があるが、これはインド西部の大都市ムンバイが英国統治時代に “ボンベイ” と呼ばれていたことから、ボンベイ(Bombay)+ ハリウッド(Hollywood)= ボリウッド(Bollywood)と作られた造語である。つまり、ボリウッド映画とは、あくまでムンバイで制作されたヒンディー語映画を指しているに過ぎない。ボリウッド以外にも、トリウッド(コルカタ / ベンガル語、またはハイデラバード / テルグ語)、コリウッド(チェンナイ / タミル語)、サンダルウッド(バンガロール / カンナダ語)など、色々あるのだ。

ちなみに、1998年に日本で公開され社会現象にもなった『ムトゥ 踊るマハラジャ』(Muthu)(現地では1995年公開)はタミル語、その時に作られた日本におけるインド映画の興行記録を24年振りに塗り替えた『RRR』(2022年公開)はテルグ語の映画である。

ところで、インドを舞台にした映画の中で、世界で最も知られているのは、2009年のアカデミー賞で作品賞(Best Picture)を含む8部門を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』をおいて他にないだろう。だがこの映画、実は英国の制作チームが制作し、ハリウッド映画のように世界中に配給されたので、残念ながらインド映画とはいえない。だからこそ、オスカーを獲得できたのかもしれないが、とはいえ、本当の意味でのインド映画が世界を席巻するようになるのも、おそらく時間の問題だろう。

米国トランプ政権下で就労ビザ審査が厳格化している、というニュースを目にしたことがあると思うが、第1期トランプ政権(2017~2021年)の時にはインドの優秀なITエンジニアの10万人以上が帰国を余儀なくされた。だが、その結果としてインドで起業が盛んになり、ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場スタートアップ)が続々と誕生したという経緯がある。だから、これと同じようなことが、映画業界でいつ起きても不思議ではない。

​​数々のヒット映画の音楽を担当してきたA・R・ラフマーン
最後に音楽の話に戻るが、米英のシングルチャートで最もヒットしたインド人アーティストによる楽曲は、『スラムドッグ$ミリオネア』の主題歌「ジャイ・ホー」の英語バージョンで、全米15位、全英3位を記録した。この曲を書いた​​A・R・ラフマーンは、インドのみならずアジアで史上最も売れたアーティストの1人といわれており、前述の『ムトゥ 踊るマハラジャ』を含めた数々のヒット映画の音楽を担当してきた凄い人だ。

このように、インドの音楽シーンは映画音楽として発展してきた面が大きいので、インド発の、あるいはインド人によるポップミュージックは、今後も映画の発展に付随して広がっていくだろう。この点は、もしかしたらJ-POPとアニメの関係に似ているかもしれない。

その昔、ザ・ビートルズがインドを目指したのは、主として精神性の追求が目的であった。だが今日では、インドは経済合理性の観点から行くべき地であり、組むべき人であるといえる。多くの日本人にとって、インドはまだまだ心理的ハードルが高いかもしれないが、これを機に皆さんに少しでもインドに興味を持って頂けることを、僕は心の底から願っている。
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