能登支援の長編 堂々完結 馳月基矢さん著「輪島屋おなつ」 輪島出身・上田さん監修「身近な文化、方言楽しんで」 277万円県に寄付

全5巻で完結した「輪島屋おなつ」シリーズ。各巻の表紙には登場する郷土料理のイラストが描かれている

 能登半島地震の被災地を応援しようと、福岡県在住の作家馳月基矢(はせつきもとや)さん(41)が能登地方の郷土料理を題材にした時代小説「輪島屋おなつ」シリーズ(徳間書店)が全5巻で完結した。印税など累計277万4800円を石川県に寄付した。執筆を終え、馳月さんは「達成感はひとしお。でも登場人物を友人のように感じていたので寂しい」と話す。(谷口大河)

 江戸の小料理屋で働く輪島出身の女性おなつの恋と成長を描く物語で、卯(う)の花(はな)ずしや海藻鍋といった能登の郷土料理をはじめ、北陸の食文化や方言、工芸などが盛り込まれている。第1巻「輪島屋おなつの潮(しお)の香(か)こんだて」を2024年12月に刊行し、「定期的に能登を思いだしてもらうきっかけになれば」と3カ月ごとに巻を重ね、25年12月の第5巻「輪島屋おなつの船出のこんだて」で締めくくった。

 輪島市出身で金沢市在住の作家上田聡子さん(42)と両親が輪島の方言などを監修した。上田さんは「ほのぼのと温かい物語。もっと全国に広げたいし、地震でつらい思いをされた方も、身近な文化や方言を楽しんで気持ちをいやしてほしい」と願う。

 馳月さんは執筆にあたり郷土料理に関する資料を読み込み、取材を重ねた。「上田さんのお宅でいただいた海藻鍋や海苔(のり)は磯の香りがしておいしく、特に印象深い」。こんかいわし(イワシの小糠(こぬか)漬け)は取り寄せて自ら料理した。お気に入りは大根などと粕煮(かすに)にした「べか鍋」(4巻に登場)で、「仕事が立て込んだ時は大きな鍋に作り、こればかり食べた」と明かす。

 作中、おなつは大切な幼なじみと一緒に輪島に帰る日を心待ちに一日一日を生きる。舞台は江戸だが「帰りたい場所としての輪島」を描くことを心がけた馳月さん。輪島の町並みや海岸線、海産物の匂いなどに、自身が育った長崎県の五島列島を重ね、思いを込めて書き上げた。

 執筆中は何度も石川県を訪れたが、あくまで取材が目的だった。「今年こそ能登半島を車で一周して、現代のグルメや名物も楽しみたい」。今後も重版や電子書籍の売り上げに応じて寄付をする。

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