荒廃した「タラ漁の島」の復活

北大西洋に突き出すカナダ最東端の地、ニューファンドランド・ラブラドール州。州都セントジョンズからさらに北東へ、フェリーでしか辿り着けないフォーゴ島は、かつて「タラ漁だけで生きる島」だった。

しかし20世紀後半、乱獲によって海からタラが姿を消すと、島の経済は一気に崩れ、若者は去り、コミュニティは消滅の危機に瀕する。政府は効率化を理由に移住を促し、「島を捨てる」ことが現実的な選択肢として突きつけられた。  
そんな絶望的な状況から、フォーゴ島はなぜ復活できたのか。

再生のきっかけとなったのは、荒涼とした岩場に屹立する、1泊約28万円の最高級の宿「フォーゴ・アイランド・イン」。世界の富裕層をターゲットとしながら、所有は島の財団、運営は島民たちという仕組みはなぜ成功したのか。

世界各地をまわり、ラグジュアリーの裏側にある思想と、人の暮らしとの接点を描いてきた旅行作家・山口由美さんの寄稿でお届けする。

荒涼とした岩場に竹馬に乗った建物

「うわああ、凄い」

フォーゴ島に到着した日の翌朝、フォーゴ アイランド インの外に出て、外観を見上げた私は、思わず感嘆の声を上げてしまった。荒涼とした岩場に屹立する建築は、写真では何度も見ていたけれど、実物を目にすると、その存在感は圧巻だった。

フォーゴ島のあるカナダのニューファンドランド・ラブラドール州出身の建築家、トッド・サンダースは、ノルウェーを拠点に活動、モダンでありながら周囲の自然との融和した建築を手がけてきた。言うならば、北の大地の建築家だ。

最大の特徴であるニョキニョキとした支柱は、凹凸のある海岸に水平な建物を建てるための工夫で、竹馬を意味する「スティルツ」と呼ばれる伝統工法から発想を得ている。

撮影:山口由美撮影:山口由美

 

撮影:山口由美

「スティルツ」を用いた伝統建築は、今も島の海岸線に点在する。タラ漁の作業場に使われた建物が多い。

撮影:山口由美

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