Asia Trends
2025.10.08
アジア経済
アジア経済見通し
アジア金融政策
ニュージーランド経済
為替
RBNZが大幅利下げに加え、追加利下げ言及でNZドルは?
~NZドルの対米ドル相場は上値が重い展開となる一方、日本円には米ドル/円の行方がカギを握る~
西濵 徹
要旨
ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は8日の定例会合で、政策金利(OCR)を50bp引き下げ2.50%とした。昨年以降の連続利下げに続き、景気悪化と物価安定を受けて金融緩和を一段と強化した格好である。
ニュージーランド経済は、物価高と金利高の長期化で内需が低迷し、外需も鈍化して昨年半ばにテクニカル・リセッションに陥った。年明け以降はインフレが再加速したため、RBNZは一時的に利下げを停止したが、中東情勢の沈静化で原油高のリスクが後退したことを受けて、8月以降に利下げを再開している。
さらに、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲3.74%とマイナスに陥るなど景気失速が鮮明となり、RBNZは景気や物価の下振れリスクを重視した。結果、会合後に公表した声明では、インフレ率は来年上旬に目標中央(2%)近傍に戻るとの見通しを示しつつ、必要に応じて追加利下げを行う方針を示している。
また、オア前総裁の突然の辞任を受けて政府による圧力が懸念されるなか、次期総裁にはスウェーデン中銀の第1副総裁のブレマン氏が指名された。今後もRBNZのハト派姿勢が続く見通しであり、NZドルは対米ドルで上値の重い展開が予想される一方、日本円に対しては米ドル/円相場の動向が左右するであろう。
ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は、8日に開催した定例の金融政策委員会で、政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を50bp引き下げて2.50%とすることを決定した。RBNZは昨年8月に約4年ぶりの利下げに踏み切り、その後も今年5月まで6会合連続で利下げを実施するなど金融緩和を継続してきた。この背景には、同国ではここ数年にわたってインフレが続いたが、昨年後半以降のインフレ率はRBNZが定める目標(1~3%)の範囲で推移するなど落ち着きを取り戻していることがある。さらに、物価高と金利高の共存が長期化したことで個人消費など内需が弱含むとともに、最大の輸出相手である中国経済の変調が外需の足かせとなり、昨年半ばにかけての同国経済はテクニカル・リセッションに陥るなど景気が低迷したことも利下げを後押しした。一方、年明け以降にインフレ率が加速に転じ、中東情勢の不安定化による短期的な物価上昇リスクを警戒して、RBNZは7月会合で利下げを一時的に休止したものの、その後の原油価格は中東情勢の沈静化などを理由に頭打ちしたことから、RBNZは8月の前回会合で利下げを再開させた。そして、足元のインフレ率は引き続きRBNZの目標域内で推移しており、一段の利下げに動いた格好である。さらに、今回RBNZは利下げ幅を50bpに拡大させるとともに、OCRの水準も3年3ヶ月ぶりの水準となるなど緩和姿勢を一段と強めた。


RBNZは8月の前回会合において、評決が割れるなど政策委員の間で大幅利下げを求める意見がみられたほか、追加利下げの可能性に言及するなどハト派姿勢を強めている兆しがみられた(注1)。この背景として、RBNZは景気の不透明感が高まっていることを理由に挙げたものの、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲3.74%と3四半期ぶりのマイナス成長に転じるとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースも▲0.6%と5四半期連続のマイナスで推移するなど、足元の景気が急失速していることが確認された(注2)。よって、その後の金融市場においては、トランプ米政権の政策運営の不確実性に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げを受けて米ドル安が意識されやすい状況にもかかわらず、RBNZが大幅利下げを迫られるとの見方が強まり、NZドルの対米ドル相場は上値の重い展開をみせた。RBNZを巡っては、今年3月にオア前総裁が突如辞任を発表したことをきっかけに、政府による圧力が強まっていることが明らかになった。こうしたなか、先月末にニュージーランド政府はRBNZの次期総裁に、スウェーデン中央銀行の第1副総裁であるブレマン氏を指名することを明らかにしたが(注3)、12月の総裁交代を前に、ホークスビー現総裁の下で金融緩和を進めた格好である。


会合後に公表した声明文では、物価動向について「足元では目標の上限近傍で推移しているが、先行きは余剰生産能力を理由に来年上旬には目標の中央値(2%)近傍に戻る」との見方を示している。一方、景気動向について「今年前半は、供給制約や世界経済の不確実性を理由に弱かった」とした上で、「貿易相手国は強力な投資を追い風に回復力をみせているが、来年には鈍化が見込まれる」との見通しを示している。そして、先行きの物価見通しについて「上下双方のリスクがある」とした上で、「家計や企業の慎重姿勢は景気の足かせとなるとともに、中期的なインフレ圧力を後退させる」一方、「足元のインフレ圧力が持続的なものとなる可能性もある」との見方を示している。その上で、今回の決定について「中期的にインフレ率が目標の中央値近傍で持続的に安定するために必要な場合、OCRのさらなる引き下げを引き続き検討する用意がある」として、追加利下げに前向きな姿勢をみせている。また、同時に公表された議事要旨では、会合において「経済状況やリスクバランスを勘案して25bpの利下げか50bpの利下げの選択肢が協議された」ことを明らかにするとともに、今回50bpの利下げを決定した理由について「余剰生産能力の長期化とそれに伴う中期的な景気と物価の下振れリスク」を挙げている。その上で、今回の決定は「全会一致で決定される」とともに、「必要であればさらなる利下げに引き続き柔軟に対応する姿勢を維持する」とした。なお、8月会合に際して公表された報告書では、先行きのOCRについて2.5%を下限とする見通しが示されたが、今回の決定ですでにその水準に達するとともに、追加利下げの可能性に言及したことは、RBNZがハト派姿勢を強めている様子がうかがえる。したがって、今後のNZドルの対米ドル相場は上値が抑えられる展開が続くと見込まれる。その一方、日本円に対しては米ドル/日本円相場の動向がカギを握ると予想される。


以 上
西濵 徹

WACOCA: People, Life, Style.