栽培面積・生産量・販売額ともに日本一を誇るリンドウ生産地・岩手県八幡平。同地で培われた花き栽培技術が、遠く離れたアフリカ・ルワンダで大きな花を咲かせようとしています。ルワンダでは、2023年2月から花き種苗生産のビジネス事業化を目指して、ビジネスモデルの検証、提案製品等への理解の促進等を目的としたJICAの支援事業(中小企業・SDGsビジネス支援事業)を実施。関わる全ての人がWin-Winとなるビジネスモデルは、地方創生とグローバルサウスの成長にも貢献する新しい国際協力の形を示しています。26年1月の事業完了を目前にした今、3年間の歩みとこれから広がる可能性について、事業提案者である株式会社R-GATE八幡平 代表取締役の佐藤芳之さん、外部人材として技術支援を行った日影孝志さん、リンドウをはじめとする花きの品種開発や技術研究を手がける八幡平市花き研究開発センターの遠藤満さんにお話を伺いました。
八幡平リンドウの歩みと、ルワンダで始まった新たな挑戦
八幡平市では1960年代後半からリンドウの栽培に取り組んできました。自治体と生産者のたゆまぬ努力の末、オリジナル品種『安代りんどう』のブランド化に成功。1990年代からは南半球にも生産拠点を拡大し、日本の夏季にしか出荷できなかったリンドウの通年供給を実現したほか、ヨーロッパに向けた輸出も開始しました。海外の生産地とは栽培許諾契約を結び、品種を知的財産として輸出することで、八幡平の生産者へ利益が還元される独自のモデルを築いています。
八幡平市の特産品『安代りんどう』
新たな産地として、ルワンダで切り花生産が始まったのは2019年のこと。ルワンダを経由したヨーロッパ市場への安代りんどうの切り花輸出は、農業分野の発展を国家戦略に掲げるルワンダのニーズや、冬のヨーロッパの生花需要とも合致し、順調に生産を拡大。現在では世界最大の花き市場であるオランダ・アールスメール花市場に年間約300万本を出荷するまでになりました。
こうした需要拡大を受け、2023年に始動したのが本事業です。目指すのは、切り花よりも生産効率の高い鉢物のヨーロッパ展開です。しかし、土の付いた植物の輸出入には高いハードルが伴います。そこで重要となるのが、植物の一部を切り取り、無菌環境で増殖させる「組織培養技術」です。ルワンダで組織培養技術を用いて病害のない高品質な苗を安定的に生産し、輸出先のヨーロッパで鉢物へ育てるのです。本事業では、八幡平市がリンドウに特化して磨き上げてきた組織培養技術をルワンダで再現し、リンドウの生産を拡大するとともに、同技術を他の花きにも適応し、ルワンダの花き産業のさらなる振興に寄与することを目標としました。
ルワンダに開設した組織培養施設。品質の高い苗を安定的に生産できる
事業を提案したのは、50年以上にわたりアフリカで数々のビジネスを展開してきた実業家・佐藤芳之さんです。安代りんどうの世界展開を目指す八幡平市と、花き産業で発展を目指すルワンダの挑戦を、切り花生産時代からサポートしてきた佐藤さんは、両地域によるビジネスを『八幡平モデル』と呼び、その可能性に期待を込めます。「八幡平モデルは、日本とルワンダ双方の自治体や生産者、ヨーロッパの貿易関係者など多彩なステークホルダーが関わり合い、互いにWin-Winとなる仕組みです。八幡平市側には、知的財産としてのリンドウの輸出を通して利益が還元されます。ルワンダでは雇用が生まれ、外貨を獲得できる輸出産業が育つ。本ビジネスは地方創生やグローバルサウスの成長にもつながるような、大きな可能性を感じました」
インフラ・人材・イチから築く生産体制……現地で直面したリアルな課題
こうして始まった事業ですが、現地で直面したのはインフラ不足。花き培養の高度技術者として技術指導を行った日影孝志さんは、「電気設備は電圧が安定せず、停電もしょっちゅう。アースを使う習慣がなく、私も感電したことがありました」と苦笑します。人材の流動にも苦心し、せっかく指導したスタッフが転職してしまい、次の訪問時に新しいスタッフにまた一から教えることも珍しくなかったそう。それでも地道に指導を続け、最終的に6名の技術者を育成することができました。
その過程でなにより苦労したのは、リンドウ以外の品目への技術移転でした。「特に現地のニーズを掴むのに時間を要しました」と日影さん。「当初私はルワンダオリジナル品種の開発を考えていましたが、求められていたのは、既存品種を導入し安定生産することでした。現地の方には、まず花き産業の土台を固めたいとの思いがあったのです。既存品種を扱うには、該当品種の育成や販売などに関する権利を持つ権利者との交渉も必要で、多方面での連携の重要性を痛感しました。このようなやりとりがあったものの、現地スタッフと対話を重ね、新たな品目の生産体制を立ち上げ、目指す方向性を共有できたことは大きな前進でした」
ルワンダでの技術指導の様子。インフラ問題などで苦戦しながらも、設備を整え、現地の技術者を育成した
高まる熱気が3年間の成果。国の成長を加速する独立の精神
事業開始から3年、本事業が間もなく終了します。今後は、本事業の結果を踏まえ、実際のビジネス展開に向けて動いていきます。佐藤さんは3年間を振り返り「ビジネスとして成果が出るのはこれからですが、JICAの支援で設備も整備でき、着実に準備を進めています。現地の皆さんも我々も、この取り組みがルワンダの発展に貢献すると確信しています」と手応えを語ります。同時に、これまでの活動について「もっとも心を動かされたのは、現地の熱気」との言葉も。「1994年に起きた大虐殺を乗り越え、『二度と悲劇を繰り返さない』との決意のもと国づくりを進めてきたルワンダには、自分たちの力で国を変えていこうという気概があります。リンドウ栽培に取り組む生産者にも『一生懸命に働けば収入を得られる、自分たちもやればできる』という熱量があり、ここでの仕事は彼らと世界の接点にもなっています。植民地の過去を持ち、搾取されるのが当たり前と思っていた人たちに、独立心が芽生えた。それを助けてくれる人たちがいることにも気づいた。仕事に喜びを感じて、感動して興奮して、熱気が一気に高まった。そうした雰囲気が生まれたことが本事業の最大の成果であり、今後のルワンダの成長を支える強固な基盤になると感じています」
ルワンダのリンドウ生産施設で、真剣なまなざしで作業にあたる皆さん
八幡平モデルが示すこれからのビジネスの可能性
八幡平市も、事業のこれからに期待を寄せます。八幡平市花き研究開発センターの遠藤満さんは、リンドウに情熱を注いできた地域の歴史を振り返り「海外へのチャレンジの原点には、『一年を通して安代りんどうがある景色を見たい』との願いがあったと思います。先輩方の思いを未来につなぎ、ヨーロッパの街角に鉢物の安代りんどうが飾られる日を心待ちにしています。この取り組みを機に人材交流なども生まれたらもっと面白いですね」と話します。
最後に佐藤さんは、さらなる未来に目を向けて次のように語ってくれました。「一方だけが儲かるのでなく、皆が幸せになれる八幡平モデルは、今後グローバルサウスをはじめとした世界の国々と協業していくうえで多くのヒントを与えてくれます。だからこそ、今回の事業は我々にとっても非常に大切なものでした。八幡平モデルが他地域でも展開され、世界のビジネスを変えていく。そんな未来を思い描くだけでも楽しく、うれしい気持ちになるのです」
2025年には八幡平の佐々木市長はじめ関係者がルワンダを訪問し、2015年の試験栽培から始まったりんどうプロジェクトの10周年を皆で祝った

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